第10回
雨の多い月なのに
なぜ「水無月」と書くのか?

 「水無月」とは陰暦6月の異称であるが、現在では梅雨の時季に重なるこの月をなぜ「水の無い月」と書くのか、ずっと疑問に思っていた。もちろん陰暦の場合、4、5、6月が夏なので、陰暦6月は一番日差しの強い夏の真っ盛りであるということは知っていた。だが陰暦6月に当たる新暦の7月だって、干ばつの年は別にして、雨がまったく降らないというわけではない。この月だけ「水が無い」という理由がわからなかったのである。
 そこで、『日国』を引いてみると…
〈「な」は「ない」の意に意識されて「無」の字があてられるが、本来は「の」の意で、「水の月」「田に水を引く必要のある月」の意であろうという〉
 と説明されていて、ようやく納得がいった。
 この月は畑に水が「無い」ことは確かだが、「無い」ことを意味していたのではなく、畑に水が必要だということを意味した呼び名だったのである。つまり農事と深く関わることばだったわけだ。
 残る疑問はいつごろから「水無月」という表記が生まれたかということである。実はこれには有力な手がかりがある。平安時代後期の和歌の研究書『奥義抄』に「此月(このつき)俄(にわか)にあつくしてことに水泉(すいせん)かれつきたる故にみづなし月と云ふをあやまれり」とあるところから、かなり古くから「水無し月」と理解されていたことがわかる。

キーワード:

さらに悩ましい国語辞典
―辞書編集者を惑わす日本語の不思議!―

日本最大の辞書『日本国語大辞典』の編集者はまだまだ悩んでいる! 辞書で定義しずらい言葉の悩み辞書にした「悩ましい国語辞典」の第2弾。
そんたく【忖度】[名]「忖」も「度」もはかるという意味。他人の心を推し量ることで「なにか配慮をする」の意味はない。/しんしゃく【斟酌】配慮までする意味なら「忖度」でなく、「斟酌」の方がしっくりする。この語「手加減する」と意味は変化し続け、今、忖度で起きている現象が斟酌でも起きている……

悩ましい国語辞典
―辞書編集者だけが知っていることばの深層―

「日本国語大辞典」の編集担当者を惑わすことばの不思議スリリングに揺れる日本語の深さ! 面白さ満載!
「うがった見方」は「疑ってかかるような見方」ではない/「悲喜こもごも」を合格発表の描写で使うのは誤り/「まじ! 」は、江戸時代の小説に使用例がある/スコップとシャベルはどちらが大きいか?西日本と東日本では違う/「谷」を「や」と呼ぶのは音読みでも訓読みでもない方言/「あばよ」の語源は幼児語の「アバアバ」

ジャパンナレッジとは

ジャパンナレッジは約1500冊以上(総額550万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る