第102回
「行く」は「いく」か?「ゆく」か?

 最近の小学生向けの国語辞典は、すべての漢字にふりがなを付けたもの(総ルビ)が主流になっている。このコラムでも再三紹介している「辞書引き学習」を、小学校低学年から、場合によっては幼稚園児から始める子どもが増えているためである。
 編集部でもそうした動向を受けて、小学生向けの辞典類は新刊も改訂版も極力総ルビにするようにしている。漢字にふりがなを付ける作業は、データさえあれば最近はソフトを使ってある程度自動でできるので、それほどたいへんではない。だがそうではあっても、最終的な判断はやはり人間がしなければならないものがけっこうある。特に読み方の揺れている漢字がやっかいだ。
 たとえば、「行く」。「いく」か?「ゆく」か?といった問題である。話しことばとしてはどちらでもよいのだが、1つだけ決めて活字にして示すというときはけっこう悩む。
 「いく」「ゆく」はともに上代から用いられていて、ほとんど意味は同じである。
 明治以降では、国定読本が「いく」の方を基準としたが、現在の「常用漢字表」の音訓では「いく」「ゆく」どちらも認められている。
 ただ、「ゆく」に比べて「いく」の方が話しことば的な感じをもっているようで、「過ぎ行く」「暮れ行く」など、文章語的な語の場合には「いく」と言わずに「ゆく」と読むのが普通である。また、促音便形になった場合は、「ゆく」は用いられず、「いく」を用いて「いって」「いった」となるなど「いく」の方が使用範囲が広い。
 そのようなことを考え合わせて、編集部の方針としては、単独で「行く」とあるような場合は「いく」で統一することにした。

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