第103回
「他山の石」はどんな石?

 ちょっと前の話だが、当時小学生だった私の子どもが持って帰った「学校だより」に目を通していて、おやおやと思う表現を見つけた。
 他校で起きたいじめ問題に関して、本校ではそのような実態は認められないが、決して他山の石とせず、そのようなことが起きないように注意深く学校生活の様子を見守っていきたい、という内容であった。
 もうお気づきになった方も多いであろう。引っかかったのは「他山の石とせず」の部分である。「他山の石」は間違った意味で使われるケースが増えていることわざの1つなのである。文化庁が実施した平成16(2004)年度の「国語に関する世論調査」でも、本来の意味である「他人の誤った言行も自分の行いの参考となる」で使う人が26.8パーセント、間違った意味の「他人の良い言行は自分の行いの手本となる」で使う人が18.1パーセントという結果が出ていて、間違った意味で使う人の数が正しい意味で使う人の数に迫りつつある。もともとの意味は、他の山にある質の悪い石でも自分の玉を磨くのには役立つということからなので、良い言行を手本にするという意味で使うのは誤りということになる。
 ところが、「学校だより」の使い方は文化庁が調べた誤用とも違う、新しい?誤用と思われるのだ。文脈から考えると、「対岸の火事」「他人事」に近い意味で使っていると考えられるからである。最初は「学校だより」だけの誤用かとも思ったのだが、念のためにインターネットで検索してみると、「他山の石とせず」で何万件も引っかかるではないか。もちろん中には「他山の石とせず」の言い方が間違いであると指摘しているものもあるのだが。
 「他山の石」の誤用はかなり複雑になっているようで、改めて文化庁で実情にあった「世論調査」をしてもらいたいと思う。

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