日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第108回
部首が変わる?

 「帰」という漢字の部首をご存じだろうか。ほとんどの辞書は「巾」の部に入れている。ちょっと意外な感じがするのだが、皆さんはいかがであろうか。
 だが、「巾」も元々の部首ではなかった。「帰」の旧字は「歸」で、部首は古くは「止」とされていた。つまり漢字の左側の下の部分を部首としたのである。それが「帰」という字体に変わり、「止」の部分が無くなったので、従来あった「巾(はばへん・きんべん)」の部に移したというわけである。それなら、もっとわかりやすい「リ」を部首にすべきではないかと思われるのだが、「リ」という部首は存在しなかったのである。
 部首とは『大辞泉』によれば、「漢字の字書で、漢字を字画構成に従って部分けをし、各部ごとにその共通要素である字形を頭に示して索引の用に当てたもの。」とあるように、あくまでも検索のための便宜的なものである。
 日本の漢和辞典(漢字辞典)は、中国清代の康熙(こうき)帝が命じて編纂させた『康熙字典(こうきじてん)』(1716年成立)に依拠していることが多く、漢字の部首もこれをもとにして決めている。「歸」の部首を「止」としていたのも『康熙字典』がそうしていたからなのである。
 だが、康熙帝の時代から300年近く経ち、日本人が日常使う漢字の字体も大きく変わっている。漢字力の低下が懸念されている現代では、漢字の扱いはもう少し柔軟であってもよいような気がする。
 たとえば、弊社の小学生向けの漢字辞典(『例解学習漢字辞典』)では「リ」という部首を新たに設け「帰」をそこに収めている。伝統を重んじることも大切だが、漢字の指導はわかりやすさを優先すべきなのではないかと思う。もちろんこのようなやり方に批判もあるだろうことは、じゅうぶん承知しているのだが。
 

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