第111回
映画館で「号泣」できる?

 「映画館で悲しい映画を見て号泣したことはありますか?」
 そう聞かれて、「ある」と答えたとしたら、その人はかなり勇気のある人だと思う。というのは、「号泣」の本来の意味は、大声をあげて泣き叫ぶということだからである。
 自宅で1人で映画を見ているときなら、大声を出して泣くこともあるかもしれない。だが、他の人がいる映画館で周囲もはばからずにそうすることはかなり勇気がいることだろう。
 「ある」と答えた人は、恐らく「号泣」は「激しく泣く」という意味のことばだと思っているのではないだろうか。しかしそれは、本来の意味ではない、間違った意味なのである。
 しかもその間違った意味が優勢になりつつあるらしいのだ。
 文化庁が発表した2010(平成22)年度の「国語に関する世論調査」では、本来の意味である「大声をあげて泣く」で使う人が34.1パーセント、間違った意味の「激しく泣く」で使う人が48.3パーセントと逆転した結果が出てしまったのである。
 確かに最近は「号泣」を使いながら明らかに声を出して泣いてはいないな、と推察できるような文章や会話に出会う機会が多くなった。日本人は、声をあげて泣くことをしなくなってしまったのかもしれない。
 似たような意味の語に「慟哭(どうこく)」があり、「慟」も「哭」も大声をあげて泣くという意味である。だが、ともに常用漢字外の漢字であるせいか、この語もあまり使われなくなってしまった。
 最近の国語辞典では、まだ少数派ながら、「激しく泣く」という意味を、誤った言い方だとしながらも載せるものが出てきた。「映画館で号泣する」と言ったときに、違和感を覚えない人が今後更に増えていく可能性は大きい。

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