第114回
漢字の読みには音と訓がある

 タイトルを見て、何を当たり前なことをとお思いになった方は多いと思う。だが、近年、音読みと訓読みの区別ができない大学生が増えているらしいのだ。日本語学が専門の某女子大の教授から聞いた話である。
 今更言うまでもないことだが、音読みは中国から日本に伝来して日本語化した漢字の発音による読みであり、訓読みは漢字の日本語としての読みである。
 だが、中にはその読みが音と訓のどちらなのか紛らわしいものもある。たとえば「菊」という漢字。日本の国花でもあり皇室の紋章にもなっているため、この漢字の読み「きく」は日本語としての読みだと思っている人がけっこう多いようだ。だが、実は「きく」は音なのである。この漢字には訓はない。 
 「菊」はかなり特殊な例だが、なぜ音と訓の区別ができない大学生が出てきたのだろうか。勝手な想像だが、学校で漢字を習うとき、音と訓を一度に教えない弊害が出ているのではないだろうか。
 たとえば「衣」という漢字。この字は小学校4年生で習う漢字だが、その時は「イ」という音のみ教え、「ころも」という訓は中学校で教えることになっている。 
 そもそも訓はその漢字の意味にあたる日本語が読みとして定着したものが多いので、音と訓を分けずに一度に教えてしまえば合理的だと思われる。 
 横浜市立の小学校でこの春まで教鞭をとっていた道村静江氏は、漢字の音と訓をセットで教え、口で唱えさせる方法を提唱している。たとえば「衣」という漢字だとこんな感じだ。「白(ハク)イのイ、ころも」
 この熟語の部分は、ほとんどの人がこの熟語を聞くとその漢字を思い浮かべられるというもので、まさに優れものである。道村氏は、かつて在籍していた横浜市の盲学校で目の不自由な子どもにこれを使って漢字を教え、成果を上げている。その様子は5年ほど前に、NHKの「ドキュメントにっぽんの現場~ことばあふれ出る教室~」というテレビ番組で紹介されたことがあるので、ご覧になった方も大勢いらっしゃると思う。盲学校から発信したこの指導法は、漢字が苦手な子どもの救世主になるのではないだろうか。

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