第121回
金メダル獲得は「戴冠」なのか?

 昨日(日本時間では今朝)閉会式が行われたロンドンオリンピックは、夏の暑さを吹き飛ばすような日本人アスリートの活躍で大いに盛り上がった。テレビ画面で見た数々の名場面が今も心に残っている。
 だが、だからといってこのコラムでオリンピックを話題にしようというわけではない。やはりことばの話なのである。
 体操男子の個人総合で内村航平選手がみごと金メダルを獲得したとき、スポーツ新聞に「日本男子としては84年ロサンゼルス五輪の具志堅幸司以来、28年ぶりの戴冠で3連覇中の世界選手権と合わせたダブル・タイトルは日本初となった。」(スポーツニッポン)という記事が掲載された。これを読んで「やっぱり使われたか」と思ったのである。何のことだかおわかりだろか。記事中の「戴冠」ということばである。
 以前からこの「戴冠」ということばが、主にスポーツ紙で、たとえば競馬の五大クラシックレースなどで優勝した馬に対して使われているということは気づいていた。それが今回オリンピックでも使われていたので、「やっぱり」と思ったのである。もちろん、馬ならよくて、人間だとだめだという話ではない。
 「戴冠」とは、「国王が即位のしるしとして王室伝来の王冠を頭にのせること。」(『大辞泉』)である。今年はイギリスのエリザベス女王即位60周年で、盛大な式典がオリンピック前に行われたのでご記憶の方も大勢いらっしゃるであろう。女王は1953年に戴冠式を行っている。「戴冠」はその「戴冠式」で王冠を頭にのせることであり、それ以外の意味は存在しない。
 ではなぜスポーツ紙などで「戴冠」が広く使われるようになったのか。恐らくマラソンで勝者の頭上に月桂冠をのせることから類推して生じたのではないか。あえて言うなら意味の借用である。ことばはこのように意味の借用によって意味を拡散させていくことが時々ある。
 「戴冠」をこのような意味で使うのは現時点ではスポーツ紙に限られているようだが、今後一般紙のスポーツ欄に拡大して使われる可能性も否定できない。
 新しい用法で誤用だとか不適切だとか言い切ることはできないが、できれば本来の意味だけで使って欲しいことばである。

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