第130回
笑えない「にやける」の話

 本来の意味で使っている人14.7%、従来なかった新しい意味で使っている人76.5%。
 何の割合かおわかりだろうか。先頃文化庁から発表された平成23年(2011年)度の「国語に関する世論調査」による、「にやける」ということばの使用実態である。
 この調査で少数派になっていることがわかった本来の意味は「なよなよしている」というもの。圧倒的な多数派は「にやにやする。薄笑いを浮かべる」という従来なかった意味である。皆さんはいずれの意味で使っていただろうか。
 国語辞典で「にやける」を引いてみると、新しい意味を載せているものはまだまだ少数派といえる。筆者が調べた限りでは、『大辞泉』が「若者言葉」として、『三省堂国語辞典 第6版』が「あやまって」として、この意味を紹介している。
 「にやける」が、「にやにやする」という従来なかった意味になったのは、間違いなく「にやける」の「にや」と「にやにやする」の「にや」との類似からだと思われる。にやにや笑うという意味の「にやつく」などという語との混同も考えられる。
 薄笑いをする「にやにや」は擬態語だが、「にやける」は「にやけ(若気)」という名詞が動詞化した語だといわれている。
 では「にやけ」とは何かというと、『日本国語大辞典 第2版』によれば、「鎌倉・室町時代頃、貴人の側にはべって、男色の対象となった少年。」のことなのである。
 鎌倉時代初期の説話集『古事談』に「長季は宇治殿若気也」などという用例もある。「宇治殿」というのは、平等院鳳凰堂を建立した摂政・関白藤原頼通のこと。
 これが後に、男が色めいた姿をしていることや、男が派手に着飾ったり、なまめき媚びるような態度をとったりすることを言うようになるわけである。いずれにしても「にやにやする」とは別語だったわけだ。
 だが、文化庁の調査結果を見る限りでは4分の3の人が「にやにやする」と関連があると考えていることになる。ことばは変化するものだとは言っても、このままでは、自分の意図したことが相手に正確に伝わらなくなってしまうのではないかと危惧される。

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