第131回
「二つ返事」か「一つ返事」か?

 第49回(2011年3月14日)で紹介した「辞書引き学習」のワークショップのために、発案者の深谷圭助氏(中部大学准教授)と北海道札幌市に行ったときのことである。
 深谷氏が文化庁から発表されたばかりの平成23年度「国語に関する世論調査」を話題にし、会場に来た人たちにその調査項目の「二つ返事」「一つ返事」について、どちらを使うか挙手してもらうということがあった。会場に来ていた200人ほどの人たちは、大人も子どもも明らかに「二つ返事」の方が多かった。
 だが、文化庁の調査では全国的に見れば「一つ返事」と答えた人の方が「二つ返事」と答えた人よりも多いのである(前者は46.4%、後者は42.9%)。ただそれによれば北海道は「二つ返事」と言っている人の率が高い地域で、その結果とは一致している。
 話が前後してしまったが「二つ返事」「一つ返事」のどちらが正しい言い方かというと、「二つ返事」が正しく、「一つ返事」は誤った使い方である。
 ところが文化庁調査で全国的には誤った言い方の「一つ返事」の方が多いという結果がでたのは、北陸、中部、近畿、中国、九州の各地域では「一つ返事」と言っている人の割合の方が多かったからである。ただなぜ西日本に「一つ返事」が多いのか、その理由はよくわからない。
 『日本国語大辞典 第2版』を引いてみると「一つ返事」の項目が『女工哀史』(1925)の用例とともに立項されている。偶然かもしれないが著者の細井和喜蔵(ほそい・わきぞう)は京都府の出身で、近畿では第二次世界大戦前から「一つ返事」が存在していたのかもしれない。
 文化庁調査にはもうひとつ不思議なことがある。それは年配者になるほど「一つ返事」の率が増えるということである。男性では60歳以上、女性では50歳以上になると「一つ返事」の割合が逆転してしまう。
 通常、ことばの誤用を調査した場合、誤用率が高いのは若者層の方なのだが、この語は逆なのである。「二つ返事」は、「はい、はい」と二つ返事を重ねて、気持ちよくすぐに承諾することであるが、「返事は一回!」などと言われてきた世代は返事を2回重ねるのはおかしいと思っているのであろうか。
 

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