日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第159回
「失笑」はどんな笑い?

 「場違いな発言に失笑する」と言ったとき、みなさんはどういう意味で使っているだろうか。「失笑」の本来の意味は、思わず吹き出して笑ってしまうことなのである。
 ところが、文化庁が発表した平成23(2011)年度の「国語に関する世論調査」では、思わず吹き出してしまうという本来の意味で使うという人が27.7パーセント、笑いも出ないくらいあきれるという本来なかった意味で使うという人が60.4パーセントと、逆転した結果が出てしまったのである。
 「失笑」の「失」はあやまってとか、やり損なってとかいった意味で、「失禁」「失言」の「失」と同じである。つまり、そんなつもりはないのについ、といった意味合いである。あきれるとか軽蔑するとかいった意味はない。もちろん、思わず吹き出す笑いには冷笑や嘲笑も含まれるだろうが、それに限定した笑いではないのである。 
 だが、なぜこのような逆転現象が生じてしまったのであろうか。
 以下はあくまでも推測である。「失笑」には「失笑を買う」という言い方があるのだが、その言い方にはあきれるという意味が込められていると勘違いして、「失笑」だけでも同じ意味になると思われるようになったのかもしれない。だが、「失笑を買う」は愚かな言動のために、他の人から笑われるといった意味で、あきれるという意味合いは本来はないのである。
 それにしても、第122回で触れた「爆笑」もそうだが、どうして「笑い」に関することばは意味の揺れが生じやすいのだろうか。

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