第167回
「全然似合いますよ」は気持ちが悪い?

 朝日新聞にbeという土曜発行の別刷り版がある。その紙面に、読者が選んだ「気持ちの悪い日本語」のランキングというのが載り(2013年6月1日付)、第2位に「全然似合いますよ」がランクインしていた(第1位は「1000円からお預かりします」)。
 be紙では、読者が気持ち悪いと感じたこの「全然似合いますよ」の「全然」を、『「全然」の肯定形で、かなり一般化した言い方。服装を気にする相手にこう言うなら、「まったく問題がなく」の意味がこもる』。だから、誤りとは言えないと説明していた。
 第74回の「全然大丈夫」は全然大丈夫であるでも書いたのだが、「全然」は必ず否定形を伴って使わなければならないという根拠は、歴史的に見ればまったく存在しない。詳細はそちらをお読みいただきたいのだが、「全然」は元来はすべてにわたって、残らずといった意味で、肯定、否定どちらの表現でも使われていたのである。だから、「全然似合いますよ」はそういった意味では、記事の内容通り決して間違いだとは言えない。にもかかわらず、この「全然似合いますよ」には違和感というか引っかかるものがあるのである。
 というのは、「全然似合いますよ」の「全然」は、記事にあるように「まったく問題がなく」という意味なのか、いささか疑問だからである。筆者には「ひじょうに」「とても」といった程度の強調の意味のように思えるのだ。そもそも服装を気にしていたり、自分に似合っているかどうか悩んでいたりする人に、「“まったく問題がなく”似合っている」という消極的な言い方をするであろうか。「“とても”似合っている」というプラスのことを相手に伝えようとするのではなかろうか。
 「まったく問題がなく」の意味の「全然」も、新しい言い方で、最近増えてきていることは確かである。「この程度の痛みなんか全然平気だ」などと言った場合である。だが、これは否定的な状況や懸念を覆す意味で、程度を強調する「全然」とは意味が異なるためか筆者には抵抗感はあまりない。
 第74回でも書いたのだが、「全然」にとって問題なのは、後に続くのが否定か肯定かということではなく、「全然おいしい」「全然きれい」「全然えらい」のような、新たに生まれた程度を強調する 「とても」の意味の「全然」をどう考えるかということである。 
 やがてはこの「とても」の意味の「全然」も市民権を得ていくのかもしれない。だが、筆者はまだその意味には違和感がある。「全然似合いますよ」も以上のような理由から、“気持ちが悪い”と感じるのである。
******************
 「日本語、どうでしょう?」の著者神永曉さんの講演会開催決定!
小学館で辞書編集ひとすじの神永さんによるあいまいな日本語と国語辞典のお話。
日時:7月25日(木)19:00~20:30
場所:日比谷図書文化館 4階スタジオプラス(小ホール)
参加費:2000円
お申し込みは、電話(03‐3502‐3340)、Eメール(college@hibiyal.jp)、来館(1階受付)いずれかで。詳細はこちら! http://www.japanknowledge.com/info/detail/jk_news_130628.html

キーワード:

ジャパンナレッジとは

ジャパンナレッジは約1500冊以上(総額550万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る