第178回
辞典の改訂版で消えることば

 国語辞典はその規模にもよるのだが、ふつう5~10年くらいのサイクルで改訂版、つまり新版を刊行する。新版では語釈、例文などを見直し、新項目を追加することが目玉となる。
 新版で追加される新項目の数は辞典の規模によってまちまちであるが、改訂版での追加項目の話をすると、必ずと言っていいほど、新項目を追加するのであれば削除されることばもあるのではないか、それを教えて欲しいと言われる。
 確かにその時点で使われなくなったことばの見直しは行っているのだが、それをお答えするのはかなり難しい。というのは、すでに使われなくなったことばだからこそ削除しているわけで、そのようなことばはお教えしたところで、ほとんどの場合、どういう意味のことばなのかおわかりいただけないのではないかと思われるからである。おそらくほとんどの方は、かつての流行語が列挙されるのを期待しているのかもしれないが、そのようなことばは通常の国語辞典の場合はそもそも始めから載せていないか、載せていたとしてもごくわずかなのである。
 とはいえ、項目の削除はかなり神経を使う作業である。というのは、そのことばは一時期のものだったとしても、その時代の文献を読んだ人が、すでにその語が使われなくなってしまったとはいえ、それを辞書で引いてみないとも限らないからである。
 たとえば「ポケベル」は今はそれ自体が存在しないわけであるが、モバイルの歴史を考えると項目としては残しておきたい、などと考えてしまうわけである。
 以下は2011年1月に刊行した『新選国語辞典』(小学館)の最新版「第九版」で、前の第八版にはあるが第九版では削除した項目の例である。
 「絵捜し」「えり嫌い」「グルッペ」「結締組織」「強窃盗(ごうせっとう)」「再吟味」「時文」「粛学」「準内地米」「静注」「シンクロリーダー」「新清酒」など。 
 いかがであろうか。何となく意味を類推できる語もあるかもしれないが、一部の分野以外ではほとんど使われなくなって、意味もわからなくなっている語なのではなかろうか。 
 各語の意味は長くなるので省略するが、どうしても意味を知りたいという方は、「準内地米」「静注」以外は、総項目数27万語の『大辞泉』にはさすがに載っているのでそちらをご覧いただきたい。
 だが、このような項目の削除は全体の分量に制限のある紙の辞書に限ったことで、分量を気にしなくてすむデジタル辞書の場合は、ほとんど必要なくなってしまった。辞書編集者としては編集作業が楽になったことは確かなのだが、逆に新項目を追加する際に、この語はずっと生き残っていく語なのかどうかと、さまざまな観点から検討するということがなくなってしまったような気もする。

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