日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第180回
「つーか」

 ふだん何気なく使っていることばの中には、職場で使うのはちょっと、と多くの人が感じていることばが結構あるようだ。少し前にgooのランキングで、そういったことばが紹介されていた。それによると、
1位:うざっ
2位:つーか~
3位:は!?
だそうである。
 第1位の「うざっ」は、かなり以前から使われていて、最近ではあまり聞かれなくなったような気がしていたのだが、いまだに健在らしい。「うざっ」は「うざったい」の省略形「うざい」からだと考えられている。「うざったい」は、あれこれとうるさい、わずらわしい、不快だという意味の、八王子を中心とする東京多摩地区の方言で、昭和40年代後半から東京の若者が使うようになり、その後全国に広まったと言われている。
 第3位の「は!?」は、相手の発言に対して納得ができないときに発する語で、「はア」と語尾を上げる言い方に問題がありそうだ。
 これらのことばは、新語、流行語と言っていいのかどうかわからず、もちろん存在は知っていたのだが、国語辞典としてはあまり縁のないことばだと思っていた。ところが、gooの記事で第2位の「つーか」を取り上げている国語辞典があると知って驚いた。それは『明鏡国語辞典』で、この辞典は第2版から積極的に、意味が揺れていることばや最近の新しい若者ことばを搭載しているのである。
 『明鏡国語辞典』では、「というか(と言うか)」という項目の解説の中で、そのくだけた表現として「っていうか」「っちゅうか」「てか」とともに「つうか」も挙げている。
 『明鏡』では触れていないが、この「というか」にしろ、そのくだけた言い方にしろ、これらの語が多くの人に職場では避けるべき語だと思われるのは、そのことばを使う側の意識の問題が大きいような気がする。
 というのも、会話をしていて相手がこれらの語を使うと、まるでその直前の自分の発言を否定しているように聞こえてしまうからである。「面白い映画だったよね」「つーか、前の席の人の頭がじゃまでさァ」などと言われると、会話がかみ合わないと感じるだけでなく、自分の発言が無視されたような気にさえなるであろう。
 また、会話の中でこの語が使われた場合、「この曲はきれいつーか(っていうか)、泣けるつーか(っていうか)」などのように、はっきりとした自分の意見を持たない(持てない)幼い人間という印象を相手に与えかねない。
 結局のところ、「つーか」だけでなく「うざっ」にしろ「は!?」にしろ、嫌われるのは、その言い様によって使う側の人間性を感じさせてしまう語であるからかもしれない。
 これらのことばを辞書に載せたとしても、そこまで踏み込んで記述することは難しい。だが、そういった注記をせずに辞典に積極的に載せる勇気は、まだない。

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