第182回
「噴飯もの」

 第141回で文字にだまされてはいけないことばとして「破天荒」について書いたが、「噴飯もの」も同様のことばなのかもしれない。
 先頃発表された文化庁の平成24(2012)年度の「国語に関する世論調査」によると、「彼の発言は噴飯ものだ」というときの「噴飯もの」を、本来無かった「腹立たしくて仕方がないこと」という意味だと思っている人が49.0%もいることがわかった。もちろん、本来の意味は「おかしくてたまらないこと」で、そう答えた人は19.7%しかいなかったのである。
 「噴飯」とは、思わず食べかけの飯をふき出すという意味で、「噴飯もの」とは「食べかけの飯を思わずふき出してしまうような、おかしい事柄」(『日本国語大辞典 第2版』)ということである。
 まさに、ぶっとふき出すという意味なのだが、なぜこの語を「腹立たしくて仕方がないこと」という意味に取る人が多くいるのであろうか。思うにそれは「噴」という漢字にだまされているのではなかろうか。「噴」は「噴火」「噴出」「噴射」の「噴」で「ふく、はく」という意味である。これを「いきどおる」という意味の、「憤慨」「憤激」の「憤」と混同しているのかもしれない。
 また、今回の文化庁の調査では、「噴飯もの」を「分からない」と答えている人が27.4%もいる点も見逃せない。聞いたことのないことばであるため意味がわからず、「噴」の字に引かれて、選択肢の最初にあった「腹立たしくて仕方がないこと」を選んだ人がかなりいる可能性も否定できないからである。
 そのことばがあまり使われなくなると、意味を勝手に類推して使うようになり、やがては従来無かった新しい意味になってしまうという例でもあるのだろうか。

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