日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第2回
「一日の長」の「一日」は、
「イチジツ」?「イチニチ」?

 経験や知識、技能などが他の人より少しすぐれていることを「一日の長」と言うのだが、この「一日」をみなさんは何と読んでいるであろうか?「イチジツ」?「イチニチ」?
 この語の出典は「論語」で、「以吾一日長乎爾、毋吾以也(吾が一日爾〈なんじ〉より長ぜるを以て、吾を以てすることなかれ=私がおまえ達よりも少し年が上だからと言って、遠慮はいらない)」(先進)による。出典が漢籍なので「イチジツ」と読んだほうがそれらしく聞こえるかもしれないが、明治・大正期の文学作品には「イチジツ」「イチニチ」の両形のルビが見られる。つまりどちらが古いとも正しいとも判断できないのである。ちなみに、同様な例に「一日千秋」があるが、これもまた「イチジツ」「イチニチ」ともに見られる。
 国語辞典では、「イチジツ」派が優勢だが、「イチニチ」派も勢力を伸ばしつつある。では、テレビ・ラジオはどうかというと、「一日の長」は「イチジツノチョウ」と読むようにしていて、保守的立場をとっているが、「一日千秋」は「イチジツ」「イチニチ」両形認めるという中道路線である。ただし、その立場を違える根拠はよくわからない。

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