日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第20回
話が“煮詰まった”らどうなるか?

 「議論もだいぶ煮詰まってきた」というときの「煮詰まる」の意味に関しての話である。みなさんはどういう意味で使っているのであろうか。
 この場合の「煮詰まる」は、正しくは、討議・検討が十分になされて、結論が出る段階に近づくという意味である。ところが近年、「煮詰まってしまって結論が出せない」のように「行き詰まる」の意味で使われる言い方が増えてきた。『日国』によれば、このような意味での使用例は、1950年代頃から見えているのだが(永井龍男『朝霧』1950年、堀田善衛『記念碑』1955年)、実際に広まったのは最近のことと思われる。
 文化庁が平成19(2007)年度に行った「国語に関する世論調査」では、「7日間に及ぶ議論で、計画が煮詰まった」を、本来の意味である「(議論や意見が十分に出尽くして)結論の出る状態になること」で使う人が56.7パーセント、新しい意味「(議論が行き詰まってしまって)結論が出せない状態になること」で使う人が37.3パーセントという結果が出ている。ただし世代別では、30代以下は新しい意味で使う人が6~8割も占めており、世代差がくっきりと表れている。まだ、この新しい意味を載せている辞典はほとんどないが、新たに意味が付け加えられる日もそう遠くないかもしれない。

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