第21回
「“コート”な服」ってどんな服?

 正確には「“コート”なべべ」などと言うのかもしれない。“コート”といってももちろんオーバーコートやレインコートのことではない。おもに京都や大阪などの関西地方で、人柄や衣類などが上品だが地味なさまをいうのである。語源は「公道」であるという。
 「公道」といっても国道や府県道などの、私道に対する公の道の意味ではない。『日国』によれば、「公道」は古くは「こうとう」と濁らずに発音し、元来は世間一般に通用する道理の意味であったようだ。それが、「礼儀作法のきまりを守ること」(日葡辞書)をいうようになり、さらに「地味で手堅いさま」の意を表わすようになったのだという。そして「こうとう」が「こうと」「こーと」になり、標題のような使われ方をするようになったというわけである。漢語由来のことばが方言にしっかりと残っているというのはたいへん興味深い。
 「コート」のような意味のことばは共通語には見あたらず、いかにも上方弁らしい語だといえる。地味というニュアンスを含んではいても、決してネガティブなことばではないそうだ。いっとき、京都弁の「はんなり」が広まって、意味をよく理解していない人が訳知り顔に使って、生粋の京都人の失笑を買った(多分)ようだが、その点「こーと」は使用範囲の広いことばと考えていいらしい。
 ただし、だからといって「こーとなコートを着てますな」といったような親父ギャグだけは避けたほうがよい。

キーワード:

さらに悩ましい国語辞典
―辞書編集者を惑わす日本語の不思議!―

日本最大の辞書『日本国語大辞典』の編集者はまだまだ悩んでいる! 辞書で定義しずらい言葉の悩み辞書にした「悩ましい国語辞典」の第2弾。
そんたく【忖度】[名]「忖」も「度」もはかるという意味。他人の心を推し量ることで「なにか配慮をする」の意味はない。/しんしゃく【斟酌】配慮までする意味なら「忖度」でなく、「斟酌」の方がしっくりする。この語「手加減する」と意味は変化し続け、今、忖度で起きている現象が斟酌でも起きている……

悩ましい国語辞典
―辞書編集者だけが知っていることばの深層―

「日本国語大辞典」の編集担当者を惑わすことばの不思議スリリングに揺れる日本語の深さ! 面白さ満載!
「うがった見方」は「疑ってかかるような見方」ではない/「悲喜こもごも」を合格発表の描写で使うのは誤り/「まじ! 」は、江戸時代の小説に使用例がある/スコップとシャベルはどちらが大きいか?西日本と東日本では違う/「谷」を「や」と呼ぶのは音読みでも訓読みでもない方言/「あばよ」の語源は幼児語の「アバアバ」

ジャパンナレッジとは

ジャパンナレッジは約1500冊以上(総額550万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る