第205回
疑問に思って「傾げる」のはどこか?

 表題にある「傾げる」は、けっこう難読語かもしれない。「かしげる」である。「かたげる」と読むこともあるが、現在は「かしげる」が一般的だと思われる。
 「傾」は「傾斜」の「傾」だから、ななめにするとか、かたむけるとかいった意味である。
 ではここで1つ問題。人間の体の一部を「かしげる」と、疑問に思う、不審に思うという意味になるのだが、その体の部分はどこかお分かりだろうか。
 答えは「首」である。「小首」と言うこともある。つまり「首(小首)をかしげる(かたげる)」で、疑問に思う、不審に思うという意味になる。だが、それが最近「首」ではなく「頭をかしげる」という形で使う人が増えているらしい。
 インターネットや国立国語研究所のコーパスで検索してみると、実際の動作として頭をかたむけているという意味ではなく、疑問に思うという意味で使われた「頭をかしげる」がかなりヒットする。国立国語研究所のコーパスでは、三浦綾子、森村誠一といった作家の例も見つかる。
  「首(くび)」は、頭と胴をつなぐ細くなった部分を指すだけでなく、そこから上の部分、すなわち「頭」全体を言うこともある。戦国時代に大将の首をとったと言えば、切ったのは首の部分だが、とったのは大将の頭である。また、「首」は「こうべ」とも読み、「頭」のことも言った。だから、「頭をかしげる」でも意味的にはよさそうなものだが、不審に思うという慣用表現は、「首をかしげる」が本来の形なのである。
 「首をかしげる」で思い出すのは、蓄音機のスピーカーの前でそのようなポーズをしている犬のマーク。この犬は日本ビクター(現株式会社JVCケンウッド)の登録商標で、ニッパーという名らしい。蓄音機から聞こえてくる亡き主人の声に耳を傾けている姿を描いた絵から、このマークは生まれたのだそうである。
 ニッパーもまた、スピーカーから聞こえてくる亡き主人の声に、しつこいようだが「頭」ではなく「首」を「かしげている」のである。
 〔本稿は、国語研究所とLago言語研究所が開発したNINJAL-LWP for BCCWJを利用しました。〕

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