第219回
なぜか誤答率が高い「消化きかん」

 「辞書引き学習」で有名な深谷圭助氏からたいへん興味深いお話をうかがった。「消化きかん」の「きかん」の誤答率が驚くほど高いというのだ。皆さんは大丈夫だろうか。
 正解はもちろん「器官」である。だが、「器管」だと思っている人がけっこう多いようなのだ。深谷氏とは「辞書引き学習」の指導のために、全国各地を一緒に回っているのだが、実際ある地方都市で会場に来てくださった方に、「消化器官」と書くか「消化器管」と書くか挙手で答えていただいたところ、ほとんど全滅というところがあった。また、別の都市で行った学校の先生を対象とした研修会でも、半分以上の先生が「器管」と答えていた。
 文化庁あたりに調査をしてもらえるといいのだが、誤答率は想像以上に高いのではないか。
 なぜ、「官」ではなく「管」だと思ってしまうのだろうか。おそらく、体の消化をつかさどる部分を管のようなものと考えて、そう書いてしまうのではないか。そう考えると質問の仕方にも問題があるのかもしれない。「消化きかん」だから間違えるのであって、単独で「きかん」と聞いたら正答率は上がる可能性だってある。あるいは、血管、リンパ管などと同じだと思ってしまう人もいるということも考えられる。
 『日本国語大辞典 第2版』によれば、「器官」という語が使われるようになったのは、比較的新しいらしい。しかも、明治時代の用例を見ると、「機関」「機官」「器関」などと表記が揺れている。「器官」という表記が一般化するのは、明治末年頃のようだ。ただし、明治以降も、寺田寅彦は「機官」(『連句雑俎』1931年)と、中島敦は「器官」も使っているが「器関」(『かめれおん日記』1936年)と表記しているものもあるので、「器官」という表記が完全に定着するまでにはかなり時間がかかったものと思われる。
 漢字の「官」には、体の特定の働きをつかさどる部分という意味がある。「五官」と言えば、視覚、聴覚、嗅覚(きゅうかく)、味覚、触覚の五つを感覚する部分、すなわち、目、耳、鼻、舌、皮膚のことである。
 これらは決して「くだ(管)」ではないのである。

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