日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第228回
「吉日」を何と読むか?

 「思い立ったが吉日」の「吉日」だが、めでたい日、縁起のよい日を意味するこの語も声に出して読もうとすると、何と読むか悩む語ではないだろうか。
 「キチニチ」「キツジツ」「キチジツ」「キツニチ」
単に組み合わせを示したわけではなく、読み方の可能性はこの4種であろう。
 字音は、「吉」の呉音はキチ、漢音はキツ、「日」の呉音はニチ、漢音はジツである。つまりキチニチは〔呉+呉〕、キツジツは〔漢+漢〕で、キチジツは〔呉+漢〕、キツニチ〔漢+呉〕となる。
 ややこしくて申し訳ないのだが、この4種のうち一般的な読みはどれかというと、「キチニチ」「キチジツ」であろう。NHKもこれらを優先し、場合によっては「キツジツ」とも読むとしている。
 ではもう一つの「キツニチ」はいったい何なのかというと、「キチニチ」同様「吉日」の古い読み方なのである。『日本国語大辞典』にも、「キチニチ」「キツニチ」という読みの確証となる『日葡辞書』(1603~04年)の「Qichinichi (キチニチ)」「Qitnichi (キツニチ)。ヨキヒ〈訳〉良い日。吉日」という用例が引用されている。『日葡辞書』は、イエズス会がキリシタン宣教師のために編纂した日本語辞書で、当時の日本語の実態がわかる貴重な資料である。この『日葡辞書』には、「キチジツ」「キツジツ」は載っていないことから、「キチジツ」「キツジツ」は比較的新しい読み方だと考えられている。
 細かな論証は省略するが、以上を整理して古い順に並べると、「キチニチ」「キツニチ」→「キツジツ」→「キチジツ」となりそうだ。
 国語辞典では、これら4種類の読みの扱いはまちまちであるが、最近の傾向としては、いちばん新しい読みの「キチジツ」を本項目にするものが増えてきているようである。

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