第240回
江戸生まれの「まじ」

 若い人たちが、「まじ、やばい」などと言っているのを聞いたことがあると思う。
 今回はこの若者ことば「まじ」の話である。もう一つの「やばい」も若者ことばだが、これについては第171回ですでに触れているので、そちらをご覧いただきたい。
 さて、この「まじ」だが、本当だとか、本気だとかいう意味であることは容易に察しがつくと思う。ふつうは「まじ」は「まじめ」の略だと言われている。だが、「まじめ」も「まじ」も使われ始めたのは同じ江戸時代かららしいということはご存じだろうか。『日本国語大辞典』によれば、文献に現れた最初の例は百数十年の違いはあるものの、どちらも江戸時代の小説なのである。
 「まじめ」の例はというと、主に上方で広まった仮名草子と呼ばれていた小説『仁勢物語(にせものがたり)』(1640年ころ成立刊行)のものが現時点では一番古い。この『仁勢物語』は「仁勢」=「偽」という書名からもおわかりのように、平安時代の歌物語『伊勢物語』のパロディー小説である。
 「まじ」は、洒落本『にゃんの事だ』(1781年刊)の例が最も古い。『にゃんの事だ』とはなんとも人を食ったタイトルだが、洒落本は主に江戸の遊里の内部や遊女、客の言動を、会話を主体に描いたもので、この小説は江戸本所の一つ目弁天前にあった岡場所(非公認の遊里)を舞台にしている。ここは猫茶屋とも呼ばれ、そこの遊女は猫と称していたところから、このような書名になったのだという。最近はやりのネコ本とはまったく違うものである。
 文献例では百数十年の違いがあるものの、「まじめ」も「まじ」もともに江戸時代から使われたとすると、どちらが古いかはにわかに決めがたい気がする。「まじめ」の語源はよくわかっておらず、大槻文彦編著の辞書『大言海』(1932~35)には「マサシキメ(正目)の義」とあるが、先に「まじ」があり、それに「細め」「控えめ」などと同じ、度合い、加減、性質、傾向の意味を添える接尾語「め」がついて「まじめ」になったという可能性も否定できないと思う。
 今の若者が使う「まじ」は、江戸時代の用法とはいささか異なるため、それがずっと継承されたというものではなかろうが、根っこの部分は同じだと言っても間違いではないと思う。江戸時代のことばはけっこう身近なところに存在しているのである。

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