第248回
「うお」と「さかな」

 あるテレビドラマで、役者さんが、「水を得た魚のよう」の「魚」を「さかな」と言っているのを聞いて、おやおやと思ったことがある。もちろん、「水を得た魚のよう」の「魚」は「うお」と読むのが正しい。
 「水を得た魚のよう」は、「魚の水を得たるごとし」とも言うのだが、どちらも「魚」は「うお」と読まれてきた。
 このことばの出典は、中国の歴史書『三国志』の「蜀志」に収められた「諸葛亮伝」による。蜀(しょく)を建国する劉備(りゅうび)は、三顧(さんこ)の礼をとって諸葛亮(孔明)を軍師として迎えるのだが、諸葛亮と劉備との交友を古くからの家臣であった関羽・張飛が快く思わなかったときに、劉備が関羽らに弁解して言ったという、「孤(こ=自分のこと。すなわち劉備)の孔明あるは、猶(なお)魚の水有るがごときなり」からである。ここから「水魚(すいぎょ)の交わり」ということばも生まれた。
 「うお」と「さかな」とでは、今でこそ単独では「さかな」を使うことの方が多いが、魚類をいうときは「うお」の方が古いことばなのである。『日本書紀』や『万葉集』などにも「紆嗚(ウヲ)」「宇乎(ウヲ)」などと書かれている。
 「さかな」はというと、やはり奈良時代からあったことばではあるが、『日本国語大辞典』(『日国』)にも『「さか」は「さけ(酒)」、「な」は、副食物の総称』とあるように、酒を飲むときに添えて食べる物のことを言うのが原義である。つまり、それは魚類だけでなく肉や野菜、果実のこともあったわけだ。この「さかな」に魚類の意味が加わったのは江戸時代以降らしい。その辺の事情は『日国』に詳しいのだが、「江戸(東日本)で発生した魚類の総称としてのサカナが、しだいに西日本へと勢力を伸ばし、ウオ系の語を駆逐していったと考えられる。」とある。
 現在では単独では「さかな」の方が優勢になっているため、件(くだん)の役者さんがそう読んでしまったのは仕方のないことかもしれないが、老婆心ながらドラマ制作の現場でもことばのチェックをする人がいたほうがいいのではないかと思った次第である。

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