第255回
「破綻」を何と読むか?

 いつも私の髪を切ってくれるO君は無類の話し好きである。先日もハサミを使いながら、「北海道でザイセーハジョーした市がありましたよね。なんていうとこでしたっけ。」と言うのである。
 「ザイセイ」は「財政」だということはすぐにわかったのだが、「ハジョー」とはいったい? 思い当たったのは、「破綻」を「ハジョー」と読んでいるのではないかということである。その市とは間違いなく夕張市のことだと気づいたからである。
 だが、なぜ「破綻」が「ハジョー」になるのか。O君には悪いのだが、たいへん面白いテーマをもらったと思った。

 「破綻」を「ハジョー」と読んでしまうのは、おそらく「綻」と編の部分だけ異なる「錠」と混同しているからであろう。「錠」は「錠前」「錠剤」などの「錠」で、戸締まりなどに用いる金具や、粉薬を粒に固めたもののことをいう。「綻」よりも「錠」のほうが広く知られている漢字なのかもしれない。
 そこで試しにインターネットで検索すると、「破綻」を「ハジョー」と読んでいる人がけっこういるではないか。おまけに、わざわざ「破錠」と書いている人までいる。ふつうのワープロソフトでは「破錠」は一発で変換しないと思うのだが。
 なぜこのような珍現象が生まれたのか。思うに、「破綻」の「綻」の字は常用漢字ではあるが、2010年(平成22年)に告示された「改定常用漢字表」に新たに追加された196字のひとつで、読みがけっこう難しい漢字だからではないか。
 「綻」が常用漢字でなかったときには、新聞などでは「破綻」には「はたん」とふりがなをつけるか、別の語に言い換えるかしていた。だが、常用漢字に加わったことによってふりがなをつけずに使えるようになってしまったのである。もちろんそれはそれで何の問題もない。だが、「破綻」はこのように読み間違える人もけっこう多いので、できればふりがなを復活させてほしいと思うのである。
 ふりがなは平安初期に始まった漢文への訓点の記入を起源とするもので、日本の識字率を古くから支えてきた、日本固有のすぐれた文字文化である。戦前には作家の山本有三らがふりがな廃止の提唱をしたり、戦後には漢字制限による文章の平易化などがあったりして、ふりがなの使用は最近ではかなり少なくなっている。だが、読めないほうが悪いと切り捨てるのではなく、多くの人が読めるようになる便利なふりがな文化を、もっと積極的に生かしたらどうかと思うのである。

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