第259回
「固執」を何と読むか?

 かれこれ40年近くも前の話である。大学の同級生に「従来のやり方に固執する」などと言うときの「固執」を「コシュー」と言う友人がいて、あれ?と思ったことがある。自分は「コシツ」と言っていたからである。失礼な話だが、彼は地方の出身だったので、最初は方言か何かなのだろうかとさえ思った。
 だが、ずいぶん経ってからではあるが、彼は「固執」の本来の読みをしていることがわかった。
 「執」という漢字の字音は「シュウ」「シツ」と二種類ある。違いは、「シュウ」が漢音で「シツ」は慣用音であるということ。慣用音とは、中国で生まれた漢字音ではなく、日本で独自に生まれた漢字音である。
 「執」の慣用音「シツ」が生まれた理由は、「執(シュウ)」が漢語の熟語の上部にくると「シッ」と促音に読まれたため、やがて「シツ」という音が生じたと考えられている。
 文献例を見ると、「固執」を「コシツ」と読む例は近世末まで見当たらない。同様の語に「確執」があるが、こちらも今でこそ「カクシツ」と読まれているが、古くは「カクシフ(シュウ)」と読まれていて、室町から江戸初期までの辞書類もほとんどこの読みとなっている。
 常用漢字表はどうかというと、同表は特に断ってはいないが、字音が複数存在する場合は代表する字音で配列されていて、「執」の場合それは「シツ」である。つまり慣用音の方が代表音だと考えているわけである。そして、「シツ」の語例としては「執務、執筆、確執」を、「シュウ」の語例としては「執念、執心、我執」を挙げている。「執務」と「執筆」は問題なかろうが、「確執」を「カクシツ」と読ませているということは、もはや常用漢字表でも「カクシュウ」や「コシュウ」は認めていないということになるのであろう。放送の世界でもNHKは、「コシツ」のみを認め、「コシュウ」は認めていない。
 だが、「固執」を「コシュウ」などと言うと、40年前の私のように変な顔をする人がいるかもしれないが、漢字の知識としては知っていても良さそうな気がする。

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