日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第31回
「霜月(しもつき)」は神が帰る月?

 陰暦11月の異称はいかにも冬らしい呼び名である。ほぼ太陽暦の12月にあたり、この月になると霜が降りるようになるところから「霜降月」といったのが、「霜月」に転じたといわれている。
 「霜月」以外にもこの月の異称は多く、「神帰月(かみかえりづき)」「神楽月(かぐらづき)」「雪待月(ゆきまちづき)」などともいう。
 面白いのは「神帰月」。これは、陰暦10月(神無月)に出雲大社に集まった神々が、この月になるともとの国へ帰り来ることからだというのである。全国の神が帰ってしまっても、出雲の神はそのままいるのだから、出雲では「神無月」になることはないのであろう。
 「神楽月」は、この月には稲の収穫を祝うなどして、神楽を奏することが多いためという。
 知らず来て四方(よも)の宮居(みやい)の神楽月
                立つ榊葉(さかきば)の音のさやけき
 室町時代の歌学書『蔵玉和歌集(ぞうぎょくわかしゅう)』に収録されている藤原定家作とされる和歌である。定家の実作かどうかは疑わしいが、「神楽月」ということばをうまく詠み込んだ和歌だと思う。

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