第316回
「見まい」か「見るまい」か?

 当たり前なことではあるが、国語辞典には、名詞や動詞、形容詞、形容動詞、副詞だけでなく、助詞や助動詞と言った付属語と呼ばれる語も載せられる。しかも、こうした付属語は意味が多様なため、大項目(解説の行数が多い)となることが少なくない。だが、一般の読者がこのような語を引いてみようと思うのはどのようなときなのであろうか。あるいは、知りたいと思うことをすぐに探しだせているのであろうか。
 なぜそのようなことを言うのかというと、辞書はその語のほとんどの意味を網羅することが使命ではあるが、一般の人が知りたいと思っていることは、実際には辞書に載せられたものの中のごく一部なのではないだろうかと思っているからである。しかもその知りたいと思っていることは共通していて、かなり絞り込めるのではないかと思っているからなのである。

 たとえば、「まい」という助動詞がある。「まさかそのようなことはあるまい」のように「……ないだろう」という打ち消しの推量を表したり、「やつとは二度と会うまい」のように「……しないつもりだ」のように打ち消しの意志を表したりする。
 もちろんこの語を辞書で引いてみようと思う人は、詳しい意味分けを知りたいということもあるであろう。だがそれ以上に、この語が付く動詞の活用形を知りたいという人のほうが多いのではないかという気がするのである。
 「まい」は、五段活用の動詞の場合は終止形に付くのだが(「言うまい」「書くまい」など)、それ以外の動詞には未然形に付く。従って、「見まい」「しまい」「来(こ)まい」「考えまい」などが本来の言い方だとされる。
 しかし実際には、五段活用以外の語でも終止形に付く例がしばしば見られるようになっているのである。たとえば「見るまい」「するまい(「すまい」とも)」「来るまい」「考えるまい」などである。
 そのようなこともあって、放送では、「すまい」「するまい」「来るまい」「見るまい」「考えるまい」も許容としている。ただ、現代語としてはこの「まい」は次第に使われなくなっており、「…ないだろう(つもりだ)」などように言い換えるケースも増えている。

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