日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第322回
「魚介類」か?「魚貝類」か?

 海産動物を総称して「魚カイ類」と言うが、「カイ」の部分の漢字をどう書くかで悩むことはないだろうか。「魚介類」か「魚貝類」かで。
 「介」と書くと、この漢字にはよろい、甲羅、殻などという意味があるため、貝類だけでなく甲羅をまとった生物であるカニやエビなども指すことになる。一方、「貝」と書くと貝類だけと受け取られるおそれもあり、海産動物の総称とはいえなくなってしまいそうである。
 しかも、「貝」という漢字は、「かい」という読みは音だと思っている方も大勢いらっしゃるだろうが、実は訓なのである。音は「ばい」である。従って、「魚介類」は「介」を「かい」と読むのはどちらも音読みなので問題はないのだが、「魚貝類」を「ギョカイ」と読むと重箱読みになってしまう。
 このようなこともあって、国語辞典によっては見出し語の表記欄には「魚介(類)」だけしか示していないものもある。新聞では、たとえば時事通信社編の『最新用字用語ブック』でも「ぎょかい(魚貝)→魚介~魚介類」として、「魚介(類)」と書くようにしている。
 「魚介」と「魚貝」ではどちらが古くから使われていたかというと、「魚介」のほうが古い。「魚介」は江戸時代後期の使用例があるが、「魚貝」は近代になってからの例ばかりである。
 ことば遣いに一家言あった芥川龍之介は、「魚介」も「魚貝」も使っているのだが、明らかに区別して使っている。たとえば、『澄江堂雑記』というエッセイ集の中で、

 「按(あん)ずるに『言海』の著者大槻文彦(おほつきふみひこ)先生は少くとも鳥獣魚貝(ぎょばい)に対する誹謗(ひばう)の性を具へた老学者である。」

とあるのだが、「魚貝」は「ぎょばい」と読ませているのである。
 ただ、「魚貝」を「ぎょばい」と読むと、耳で聞いただけでは何のことかわからないという人も多くいるだろうから、「魚貝(類)」は間違いではないとしても、「魚介(類)」と書いたほうが無難なのかもしれない。

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