第346回
「いきづくり」か?「いけづくり」か?

 生きた魚介類を、頭、尾、大骨、殻などはそのままに刺し身にし、生きていた時のような姿にして盛り付ける料理のことを、何と呼んでいるだろうか。「いけづくり」だろうか、あるいは「いきづくり」だろうか。
 勝手な推測だが、大方は「いけづくり」と言っているのではないだろうか。NHKも、「いけづくり」を第1の読み、「いきづくり」を第2の読みとしている。新聞なども、たとえば時事通信社の『用字用語ブック』では、「生け作り」を採用し、注記として「『生き作り』とも」としている。
 国語辞典も同様で、「いけづくり」を本項目として、「いきづくり」を空見出し(参照見出し)にしている。つまりほとんどが「いけづくり」を優先させているわけだが、「いきづくり」も排除していない点に注目していただきたいのである。
 『日本国語大辞典』では、「いけづくり」「いきづくり」両方の見出しがあり、ともに江戸時代の例が引用されている。「いけづくり」は江戸後期の作家為永春水(ためなが・しゅんすい)の人情本の例である。

*人情本・貞操婦女八賢誌(ていそうおんなはっけんし)(1834~48頃)六・五三回「其方(そなた)の体を生作(いけづく)り、その庖丁の切味を饗応(ふるま)ひ呉れん」

 「いけづくり」は「いけづくり」でも、かなり物騒な「いけづくり」の例である。『貞操婦女八賢誌』は、「はっけんし」と書名にあるように曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』を模した小説で、八犬士に代わる八賢女が主人公で、引用した部分もその八賢女の一人「八代(やつしろ)」のせりふである。
 一方、「いきづくり」は十返舎一九の『東海道中膝栗毛』の続編の『続膝栗毛』の例である。

*滑稽本・続膝栗毛(1810~22)一一・下「おれは鰒汁(ふぐじる)に生海鼠(なまこ)鱠(なます)鯉(こい)の生(いき)づくりでなければくはぬぞといふと」

 2つの用例を見比べてみると「いきづくり」例のほうが少しだけ古いが、江戸時代から「いけづくり」「いきづくり」両用あったということは確実である。「いきづくり」を排除できない根拠となるものであろう。
 なお、「いけづくり」を漢字で書く場合、「生けづくり」がふつうだが「活けづくり」と書くこともある。また「つくり」も「作り」「造り」の両方の表記が見られる。
 国語辞典の場合、このような揺れをどこまで取り込むかで立場がわかれるのである。

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