第347回
「節句」と「節供」

 15,500,000 件と 333,000 件。
 なんの数だかおわかりであろうか。インターネットで「せっく」の漢字表記である「節句」と「節供」を検索した数である。前者が「節句」、後者が「節供」のヒット件数である。
 「せっく」とは、人日(じんじつ=一月七日)・上巳(じょうし=三月三日)・端午(たんご=五月五日)・七夕(たなばた=七月七日)・重陽(ちょうよう=九月九日)のことである。
 インターネットでなぜわざわざこのようなことをやってみたのかというと、「節句」の表記がどの程度広まっているのか知りたかったからである。インターネット上の検索であるので、この数字をうのみにすることはできないが、想像以上に「節句」が使われていることがわかる。
 それも無理もないことで、新聞では「節供」を「節句」と書き換えているからである。たとえば時事通信社の『用字用語ブック』でも、

せっく(節供)→節句~桃の節句

とある。これはかっこ内の表記、すなわち「節供」は原則として使わず、矢印で示した「節句」を使うようにという指示である。
 だが、「せっく」は古くは「節供」と書かれていたのである。そのため、「節供」とは季節の変わり目にあたって祝いを行う節日(せちにち)に、供御(くご=飲食物)を奉るのを例とするところから発した名称だと考えられている。
 室町時代以前の用例は、その時代の辞書類も含めてほとんどが「節供」で、「節句」の表記は現時点では見つけられない。ところが江戸時代になると「節句」の用例が急激に増え始める。だが、残念ながら何がきっかけでそうなったのかはわからない。
 現在「節句」が優勢になっているのは、おそらく「常用漢字表」の「句」のところに語例として「節句」が挙げられているからであろう。これは1973(昭和48)年に告示された「当用漢字改定音訓表」の内容を踏襲したものである。「供」も常用漢字ではあるのだが、「節供」の表記例がないところを見ると、「節句」の表記を優先させるという判断があったのであろう。
 新聞は「節句」にしていると書いたが、国語辞典では見出しの表記欄で「節句」「節供」を並列して示しているものが多い。ただ、最近の辞書では「節句」を先に示しているものが増えている。そんな中で、『新明解国語辞典』は「節供」を見出し欄に掲げず、解説のあとに「本来の用字は『節供』」だとして、独自路線を歩んでいる。

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