日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第41回
「龍」になれなかった「竜」

 昨年のNHK大河ドラマといえば「龍馬伝」。1年を通じて福山龍馬がたいへん評判になったようだが、今回話題にしたいのはそのことではなく、「龍馬伝」の「龍」の字のことである。
 「龍」は常用漢字表では俗字である「竜」の字が正字とされていて、「龍」の字は参考として示されているだけである。だから一般的な表記の目安としては「竜虎」「竜宮」「竜神」などのように「竜」の字を使うことになる。
 ところがNHKはあえて「龍馬」と表記していた。「龍」の字は人名用漢字としては使えるので、決して使ってはいけない漢字ではないのだが、NHKがよくぞやってくれたと内心快哉を叫んでいた。というのも辞典では、常用漢字表の字体に従う以上は、見出しの表記を坂本竜馬、芥川竜之介としなければならなかったからである。竜馬、竜之介と書くと別人のような気がしてならない。
 ところが、昨秋告示された「改定常用漢字表」に、「籠城」の「籠」の字が加わり、疑問というか困惑が深まることになってしまった。
 というのも追加になった「籠」は、たけかんむりの下は「龍」であって「竜」ではないのである。「篭」という俗字が存在するにもかかわらずである。つまり単独で使うときは「竜」なのに、たけかんむりが付くと「龍」になるというわけである。
 確かに「篭」よりも「籠」のほうが一般に通用していると思われるが、たけかんむりが付くか付かないかで字体が異なるというのは混乱を招きそうだ。
 「籠」を新たに追加するとき、「竜」を見直すという発想はなかったのであろうか。

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