第47回
名前に使用した漢字の読みについて

 読者の方から、「鎮」を「しん」と読む名前の人がいるのだが、手もとの漢和辞典を調べてもそのような読みは載っていない、そのようなことがあるのか、という質問を受けた。
 確かに漢字辞典を引くと「鎮」には、「チン」「テン」という音と、「しず・める」「しず・まる」という訓しか出ていない。
 ではこの「しん」は何なのかというと、日本ではこのような漢字本来の読みとは異なる読み方を、人の名乗りでは古くから行っていたのである。それは漢字の意味から類推して生まれた場合もあるし、読み方の一部が省略された場合もあり、さまざまである。「鎮」を「しん」と読むのは漢字の旁(つくり)からの類推なのかもしれない。
 このような名乗りに使われる読みはすべての漢和辞典に載っているわけではないが、たとえば最近改訂版が出版された『新選漢和辞典第8版』(小学館)では「人名」欄を設け、「しん」の他に「しげ・たね・つね・おさむ・やすし……」といった読みを紹介している。
 名前に使う漢字の読み方に凝るのは、かなり古くから行われていたようで、江戸時代の国学者本居宣長(もとおりのりなが)も随筆『玉勝間(たまかつま)』(十四の巻)の中で、「近ごろの名前は変な漢字を使い、変な読み方をしていて、どうしても読めない名前を多く見かける」と嘆いている。名前の読み方の難しい門下生が大勢いたのであろう。
 現在では人名に使用できる漢字には制限があるが、読み方には制限がないので、難しい読みの名前が多くなったような気がする。
 漢字本来の読みからいえば、正しい読みとはいえないものもあるので、名前以外のときには注意が必要である。

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