第5回
「悩ましい」の“悩ましい”問題

 前回、「悩ましい」は問題の多い語だと書いたが、「悩ましい問題」という表現に違和感を持った方も大勢いらっしゃったのではないだろうか。本来この語は「官能が刺激されて心が乱れる思いである」という意味で使われることが多かったのだが、近年になって「どうしたらいいのか悩んでいる状態である」という意味が生じているのである。
 文化庁が平成14(2002)年1月に行なった「国語に関する世論調査」でこの語の実態を調査している。それは、「a 悩ましい目つきで誘惑する」「b AかBかの選択は悩ましい問題だ」の言い方について、どちらを使うかという調査内容であった。結果は、aだけが39.1%、bだけが22.4%、abどちらもが9.1%というものであった。
 各社の国語辞典を引いてみると、「悩んでいる状態である」という意味まで記述しているのは、気づいた限りでは、2002年刊行の第5版で初めてその意味を登録した『三省堂国語辞典』だけなのである(まさに文化庁の調査のあった年で、面白いことに語釈も文化庁調査と全く同じ)。
「AかBかの選択は悩ましい問題だ」を使う人が合計31.5%という数字は多いのか少ないのか? かくいう筆者も最初は違和感を持っていたのだが、最近は抵抗感が薄らいできている。そろそろ辞典に登録してもいい意味なのかもしれない。

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