第62回
どんなときに“鳥肌が立つ”のか?

 昨年秋に刊行した小学生向けの国語辞典(『例解学習国語辞典第9版』)の「鳥肌が立つ」という項目に、「鳥肌が立つほどすばらしい演奏」という例文を載せたところ、大人の読者から「正しい国語教育」のために削除すべきではないかというお叱りのお手紙をいただいた。
 このように書くと、いったい何が問題なのかわからないという方もいらっしゃるかもしれない。
 「鳥肌が立つ」は、本来は寒さや恐ろしさのために肌が鳥の皮膚のようにぶつぶつになることをいうのだが、近年「感動で鳥肌が立つ」という言い方をする人が増えているのである。
 文化庁が平成13(2001)年度に行った「国語に関する世論調査」でも、男女とも40歳以下の世代を中心に、その意味で使う人が増加傾向にあるという調査結果が出ている。
 この調査を受けて、それ以降に改訂をした辞典では、「感動で鳥肌が立つ」と言う意味を新たに加えるものが増えてきている。弊社の辞典以外でも『広辞苑第6版』『三省堂国語辞典第6版』『岩波国語辞典第7版』などがそうである。
 このような表現を誤用と考えるべきかどうか意見が分かれるところだと思う。辞書は規範を重んじるべきものなのか、ことばの現象を追いかけてそれを記述すべきものなのか、さまざまな考えがあるからだ。
 ただ、あくまでも個人的な考えではあるが、1500年にも及ぶ文字として残された日本語の記録を元に日本語の歴史を記述した『日本国語大辞典』のような辞典に長く関わっていると、ことばの変化や揺れは当たり前な現象なのではないかという気がしてくるのである。

キーワード:

さらに悩ましい国語辞典
―辞書編集者を惑わす日本語の不思議!―

日本最大の辞書『日本国語大辞典』の編集者はまだまだ悩んでいる! 辞書で定義しずらい言葉の悩み辞書にした「悩ましい国語辞典」の第2弾。
そんたく【忖度】[名]「忖」も「度」もはかるという意味。他人の心を推し量ることで「なにか配慮をする」の意味はない。/しんしゃく【斟酌】配慮までする意味なら「忖度」でなく、「斟酌」の方がしっくりする。この語「手加減する」と意味は変化し続け、今、忖度で起きている現象が斟酌でも起きている……

悩ましい国語辞典
―辞書編集者だけが知っていることばの深層―

「日本国語大辞典」の編集担当者を惑わすことばの不思議スリリングに揺れる日本語の深さ! 面白さ満載!
「うがった見方」は「疑ってかかるような見方」ではない/「悲喜こもごも」を合格発表の描写で使うのは誤り/「まじ! 」は、江戸時代の小説に使用例がある/スコップとシャベルはどちらが大きいか?西日本と東日本では違う/「谷」を「や」と呼ぶのは音読みでも訓読みでもない方言/「あばよ」の語源は幼児語の「アバアバ」

ジャパンナレッジとは

ジャパンナレッジは約1500冊以上(総額550万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る