第64回
「海坂(うなさか)」の意味

 藤沢周平原作の映画「小川の辺」が公開されている。今回もまた藤沢作品ではおなじみの「海坂藩」が舞台である。
 「海坂藩」というのは藤沢周平が創出した架空の藩で、藤沢の故郷山形県庄内地方の庄内藩がモデルになっている。藤沢がこの架空の藩を「海坂」と名付けたのは、自身が一時期投稿していた句誌『海坂』からだということは、藤沢ファンの間ではよく知られていることであろう。
 だが、この「海坂」がそもそもどういう意味かということをよく知らない人は、けっこう多いのではないだろうか。
 たとえば、インターネットでウィキペディアを検索すると、「海坂(うなさか)とは、水平線が描く弧を意味する言葉である。」とある。
 なぜ、いきなりウィキペディアを引用したかというと、「水平線が描く弧」といっているが、それでは意味として正しくないからである。
 「海坂」とは、「上代、海上にあると信じられていた、海神の国と人の国との境界。」(『日国』)のこと。つまり、「坂」は「境(さかい)」の意なのである。ウィキペディアがいうように、決して「弧」という形を表した語ではない。『古事記』『万葉集』にも用例が見られる、古代人の他界観を表した古いことばなのである。
 このことだけをあげつらってウィキペディアの記述がすべて間違っていると断じるのは早計であろうが、参考にする際にはやはりそれなりの注意が必要なようだ。

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