第67回
「青田買い」と「青田刈り」

 会社、事業所などが人材確保のために、卒業予定の学生の採用を早くから内定することを、みなさんは何と言っているであろうか。
 「青田買い」?それとも「青田刈り」?
 似たようなことばだが、そもそもの意味はまったく違うのである。
 「青田買い」は、「水稲の成熟前に、その田の収穫量を見越して先買いすること。」であり、「青田刈り」は、「収穫を急ぐあまり、稲をまだ穂の出ないうちに刈り取ること。」である(ともに『日国』より)。
 つまり人材確保の場合は、ある程度その能力を見越して採用するということなので、卒業前の学生を実る前の稲に、その能力を収穫量に例えた「青田買い」が正しく、穂が出ないうちに刈り取ってしまう「青田刈り」は誤りということになる。
 ところが、文化庁が発表した平成16(2004)年度の「国語に関する世論調査」では、本来の言い方である「青田買い」を使う人が29.1パーセント、間違った言い方「青田刈り」を使う人が34.2パーセントという逆転した結果が出てしまった。
 『日国』にもこの調査よりも35年前の間違った用例が「青田刈り」に載っている。
 「青田刈りが常識となり、ひやかし半分に受験要領を受け取りにいった会社に」(黒井千次『時間』1969年)
 だだ残念なことにこの例は特に注記もなしに、「青田買い」に同じとしてしまっている。
 確かに用例は存在しているが、間違った使用例であることは明らかなので、『日国』としてはそれなりの配慮が必要であったと思う。編集に関わったものとして反省している。

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