日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第73回
「どじょう」

 自らを「どじょう」になぞらえた首相が誕生した。
 おかげでその野田新首相が引用した、詩人で書家の相田みつを氏の詩集ばかりでなく、「どじょう」そのものの人気もうなぎ登りだという。
 「どじょう」というと、食い意地の張った筆者などは、東京浅草のどじょう料理の老舗をまず思い出してしまう。その店は「どじょう」のことを「どぜう」と書いているので、長い間それが歴史的仮名遣いなんだろうと思い込んでいた。ところが、辞書の仕事をするようになって、歴史的仮名遣いは「どぜう」の他に「どぢゃう」「どづを・どぢを」「どじゃう」「どじょう」など諸説あることを知った。
 浅草のお店が「どぜう」と書くようになったのは、文字数を縁起のよい奇数にしたかったかららしい。だが、通常の国語辞典では、発音の別がわかる室町時代の文献に、「ドヂャウ」「土長」の表記がみられるところから、歴史的仮名遣いは「どぢゃう」とするものが多い。
 この語は語源もわかっておらず、『日国』によれば、「泥津魚(どろつお)」の意味、「泥棲魚(どろすみうお)」の意味、「土長(どちょう)」の意味、髭(ひげ)のある魚であるところから「土尉(どじょう。「尉」は男の老人)」の意味、といったように諸説ある。どうも、つかみどころのないことばのようだ。
 10年前に自民党の小泉内閣が発足した直後に、小泉首相が所信表明演説で紹介した「米百俵」ということばが、2001年流行語大賞のひとつに選ばれている。今回、政権は民主党に変わっているが、やはり新首相が口にした「どじょう」は流行語大賞に選ばれるであろうか。柳の下に二匹目はいるかどうか。

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