第74回
「全然大丈夫」は全然大丈夫である

 先日、新聞の投書欄を何気なく見ていたら、『「全然」浸透 違和感残る』という投書が目に飛び込んできた(「東京新聞」8月26日朝刊)。投書の内容は、NHK教育テレビのこども番組の歌に「全然大丈夫」という歌詞があるが、「全然」の正しい用法は「全然何々ではない」と否定形で受けなければならず、番組の担当者はチェックをしているのだろうか、というものであった。
 別に、NHKの肩を持つわけではないのだが、「全然」は否定の言い方でなければならないという根拠は歴史的にみると存在しない。
 「全然」の本来の意味は、「残るところなくすべて」という意味で、あとに肯定・否定どちらの表現も使われていたのである。
たとえば、
 「腹の中の屈托(くったく)は全然飯と肉に集注(しゅうちゅう)してゐるらしかった」(夏目漱石『それから』)
の例は、肯定形で「すべて」という意味なのである。
 では、多くの人が違和感をもつのはなぜかというと、このような「すべて」の意味の用法ではない、別の意味の用法が広まりつつあるからなのである。『日国』の編集委員の松井栄一氏は、「全然」には「全然おもしろい」のように「とても」という意味が新たに広まりつつあると指摘している(『「のっぺら坊」と「てるてる坊主」』小学館2004年)。筆者自身もこのような使い方を不自然だと感じる一人である。
 日本語の規範性ということを考えるのであれば、「全然」の場合はあとが否定か肯定かということよりも、「すべて」という本来の意味で使われているのか、新しく生まれた「とても」の意味で使われているのかということの方が重要な問題なのである。
 「全然大丈夫」は、もちろん「すべて」という本来の意味である。

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