第84回
姑息(こそく)について

 もう一回だけ、2010年度の「国語に関する世論調査」に関する話にお付き合いいただきたい。この世論調査では毎回意味の誤りやすいことばの調査も行っており、今回の調査項目の中に「姑息(こそく)」が入っていた。「姑息な手段」などというときの「姑息」である。
 このことばは今までもたびたび調査されており、2003(平成15)年の調査では、「一時しのぎ」という本来の意味で使う人が12.5%、「ひきょうな」という誤った意味で使う人が69.8%という結果が出ている。今回はというと、「一時しのぎ」15.0%、「ひきょうな」70.9%とほとんど変化が見られない。ということは、それだけ「ひきょうな」の意味が定着しているとも言えるであろう。
 「姑息」の「姑」はしばらく、「息」は休むの意味で、しばらくの間息をつくことから、一時の間に合わせにすること、一時のがれ、その場しのぎという意味になった語である。
 「ひきょうな」という意味は、その場だけの間に合わせであることから、それをずるいと感じて生じた意味だと思われる。
 それにしても、本来の意味ではないのに「ひきょうな」の意味だと思っている人が70%もいるというのは驚くべきことである。だが、辞書編集者としてはただ驚いてばかりもいられない。規範性を盾に、誤用であると主張することも一つの見識だとは思うが、もはや辞書がそう訴えても70%という数は動かしようもない気もする。
 柔軟に考えて「新しい用法」「誤って」と断って、「ひきょうな」という意味を載せるのも一つのやり方だと思う。実際、徐々にではあるが、そのようにして「ひきょうな」の意味を載せている国語辞典も出始めている。

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