第88回
なでしこ

 2011年の流行語大賞が「なでしこジャパン」に決まったという。日本女子サッカーチームのワールドカップ初優勝は、震災後の日本の明るい話題のひとつであった。
 「なでしこジャパン」の「なでしこ」はもちろん「大和なでしこ」からきている。「大和なでしこ」は日本女性の清楚な美しさをたたえていう語だが、一般にその意味で使われるようになったのは江戸後期になってからのようで比較的新しい。
 ただナデシコという花自体は、古くから美の対象とされている。たとえば万葉歌人の大伴家持(おおとものやかもち)は、
 わがやどに蒔(ま)きしなでしこ いつしかも花に咲きなむなそへつつ見む(『万葉集』巻8・1448)
という歌を詠んでいる。家持が後に妻となる坂上大嬢(さかのうえのおおいらつめ)に贈った歌で、自分の家に蒔いたナデシコが咲いたら、その花をあなただと思って見よう、という意味である。なんとも美しい恋歌ではないか。この歌からは、その当時からナデシコの花が園芸植物として愛玩されていたこともわかる。
 ナデシコは秋の七草のひとつで、同じ万葉歌人山上憶良(やまのうえのおくら)には、それらを詠み込んだ有名な歌がある(『万葉集』巻8・1538)。
 ちなみに、母の日のシンボルの花であるカーネーションも同じナデシコ科の花である。その花の名をタイトルにしたNHKの朝ドラも評判がいいようで、今年は「なでしこ」が日本に元気をもたらした年だったのかもしれない。

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