第90回
若手落語家の「幕開け」が気になる

 落語が好きで、時折寄席や落語会に通っている。
 落語はいつもそうだというわけではないのだが、落語家が高座に上がると枕(まくら)と呼ばれる短い話をしたあと、落語に入っていくことが多い。そしてその枕で「熊さん八っつぁん、横丁のご隠居さんなんてぇのが出てきますと、落語の方は幕開きでございまして」などと言うことがある。聞く側はそれで、アアお馴染みのそそっかしくてけんかっ早い江戸っ子と、物知りなご隠居さんとの掛け合いの落語が始まるのだなということがわかるわけである。
 だが、最近この「幕開き」を「幕開け」と言っている若手の落語家がいることに気がついた。
 「幕開き」は本来は芝居用語で、舞台の演技が始まることを言う。舞台の幕が開いて芝居が始まるところから、そのものずばりで「幕開き」となったわけである。やがてこれが転じて、一般に物事が始まることも言うようになる。しかもこのような場合には「幕開け」という言い方も生じたのである。これは「年明け」「夜明け」などの影響や、「幕を開ける」とも言えるところから生じた言い方かと思われる。
 しかし、NHKや新聞なども、芝居用語としては「幕開き」を使うべきであるとしているように、「幕開け」を芝居用語として使うのは正しい使い方とは言えない。「幕開け」を使うのは、物事が始まるという一般的な意味のときだけにとどめるべきであろう。
 落語は芝居的要素の濃いものであるのだから、やはり「幕開き」を使ってほしいと思うのである。

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