日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第91回
「目を見張る」と「目を見張るものがある」

 読者から、子どもが通う学校から配布された手紙に、
 「マナーの悪さには目を見張るものがある」
 とあったが、「目を見張る」ということばの使い方としてこれは正しいのだろうかという質問を受けた。その方が言うには、「目を見張る」は、驚きの中でも、主に、感心したり、感動したりしたときに使うイメージなので、上記のように批判的な言い方で使うのは違和感があると言うのである。
 「目を見張る」自体は、驚いて目を見開くというそのままの意味なので、感心したり、感動したりというときだけでなく、怒ったりあきれたりするときにも使うことができる。従って、たとえば「あまりのマナーの悪さに目を見張る」という言い方も可能である。
 ではこの場合、何が問題かと言うと、「目を見張るものがある」という言い方にあると思われる。「目を見張るものがある」と後に“ものがある”が付いただけで、「子どもの成長には目を見張るものがある」のように、肯定的な驚きに用いることが多くなり、否定的な文脈では使われなくなるのである。
 質問者が違和感をもったのはおそらくその点であり、くだんの学校通信は「マナーの悪さには目を覆いたくなる」などとすべきだったのではないだろうか。
 それにしてもちょっとした使い方の違いで、相手に「あれ、どこか変では?」と思わせてしまうのだから、日本語は本当に難しい。

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