第92回
蛇に○○まれた蛙

 昨年定年を迎えた辞典編集部の先輩と久しぶりに会ったとき、いきなり下記のようなクイズを出された。
 「蛇に○○まれた蛙」の○○に入る平仮名2文字は何? 
 何を今更と思いながら、「そんなのニラでしょ、にらまれた蛙に決まっているじゃないですか」と答えたところ、「ブッブー」とやられてしまった。「そうか、君もそう思い込んでいるんだね。自分が編集した辞典をよく見てごらん」と言われたので、いささかムッとしながら『日国』を引いてみた。すると、見出し語の形は「蛇に見込まれた蛙」になっているではないか。
 そんなバカなと思いつつ、『大辞泉』『広辞苑』『大辞林』の最新版も引いてみた。するとすべて「見込まれた蛙」なのである。
 狐につままれたような気分で、いろいろ調べてみると、どうやら「蛇に見込まれた蛙」の方が本来の形で、「蛇ににらまれた蛙」は比較的新しい言い方であるということがわかった。「見込む」は現在では、「臨時の収入を見込む」のように予想するという意味や、「君を見込んで頼むよ」のように当てにするという意味で使われることが多いのだが、本来はじっと見る、見つめるの意味で、蛙は蛇にじっと見つめられて身動きが取れなくなっているのである。
 どうやらこの見つめるの意味の「見込む」が現代語として一般的でなくなってきたために、同義語の「にらむ」を使うことが多くなったらしい。
 最近のことわざ辞典も「蛇ににらまれた蛙」の方が主流になりつつある。筆者が担当した小学生向けの国語辞典も「蛇ににらまれた蛙」の形である。知らずに時代の趨勢に従ってしまったような気もしないではないが、決まり文句であることわざも変化するのだという、いい勉強をさせてもらった。

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