日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第93回
「々」は国語辞典に載せられるか?

 読者から、「々」を国語辞典の見出しにして欲しいという要望をいただいた。たいへんな難題でいまだにどうしたものか悩んでいる。というのも「々」には読みが無いからである。国語辞典は読みさえあれば見出しとして載せられるのだが……。
 「々」は、ワープロソフトなどではふつう「どう」「おなじ」「くりかえし」「おどりじ」と入力すると変換できるのだが、これらは読みや音ではない。また片仮名の「ノ」と「マ」に分解できることから、「ノマ(点)」などと呼ばれることもあるが、これなどは変換もできないのである。
 ではこの「々」は何かというと、漢字ではなく符号なのである。従って漢和辞典では載せていないものも多い。載せたとしても読みが無いのだから音訓索引からは引けない。総画索引からしか探せないのである。
 「々」のようなくりかえしの符号は、「踊り字」「畳字(じょうじ)」などと呼ばれているので、国語辞典ではふつうそれらを見出しにして、他の「ゝ」「〱(くの字点)」などとあわせて紹介することが多い。
 この「々」という符号は、漢籍で使われた「二の字点(二の字点)」が日本に入って変化したものとも、漢字「同」の異体字「仝」の変化したものともいわれている。二の字点は漢籍では同じ漢字を繰り返す際に漢字の「二」の字が使われていて、そのくずし字に由来する。ただ「仝」の字は「々」とは違い、「おなじ」「ドウ」という読みをもつれっきとした漢字である。
 「仝」は国語辞典の見出しにすることは可能でも、「々」はやはり難しいのである。

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