第96回
「逆手」を何と読むか?

 このコラムでたびたび話題にしていることだが、日本語には読み方が複数あって声に出して読むとき判断に迷う語がかなりある。今回取り上げる「逆手」もそのひとつで、「ぎゃくて」とも「さかて」とも読める。
 この場合「ぎゃく」は字音、「さか」は字訓で、「て」は字訓だから「ぎゃくて」と読むのは重箱読みになる。だが、どちらの読み方もかなり一般化している。
 たとえば、鉄棒などでは手のひらを自分の方に向けて下から握ることを「さかてに握る」と言うのだが、最近では「ぎゃくてに握る」という言い方をすることもあるようだ。これは鉄棒では手の甲を上にしたふつうの握り方を「順手(じゅんて)」と言っていて、これは字音+字訓であるところから、反対語として同じ字音+字訓の「ぎゃくて」が使われるようになったものと思われる。
 また、「相手のことばを逆手に取る」などのように、相手の攻撃を利用して逆に攻め返すという比喩(ひゆ)的な意味では、従来は「ぎゃくてにとる」と言っていたが、近年は「さかてにとる」と言う人も増えている。そのためNHKなどでも「ぎゃくて」を第一、「さかて」を第二の読みとして、どちらも認めるようになった。
 ただし、『現代国語例解辞典』などを見ると、「ぎゃくて」と読むか「さかて」と読むかで、以下のような個別の意味があるようだ。
  ぎゃくて:「逆手(ぎゃくて)を取って投げる」などのように柔道などで相手の関節を反対に曲げて痛めつける技。 
  さかて:「刀を逆手(さかて)に持つ」などのように短刀などをふつうの持ち方とは逆に小指の方が刃に近いように持つこと。
 つまり、柔道や剣術などのときに「ぎゃくて」「さかて」を区別して使えれば、通常はどちらを使っても間違いではないと言うことになる。これからは安心して声に出して読めそうだ。

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