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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 300

『みかぐらうた・おふでさき 民衆宗教の聖典・天理教』(中山みき著、村上重良校注)

2013/01/31
アイコン画像    教典に頻出する“世界”をキーワードに、
幕末誕生の新宗教、天理教について考える

 勝手に新宗教のナゾに迫る、第二弾は天理教である。『宗教年鑑』(平成23年度版)によれば、信者数119万の大教団である。ジャパンナレッジ「ニッポニカ」には、〈1838年(天保9)から87年(明治20)にかけて大和国(奈良県)の農家の主婦であった中山みきの説いた人類創造神(「親神(おやがみ)」「天理王命(てんりおうのみこと)」と呼称)の教えに基づいて成立した宗教〉とある。

 中山みきが布教を開始した幕末から明治初期、新政府は、〈国家神道を軸に思想統制を図っていた〉(同「国史大辞典」)。そんな中、人類創造神を持ち出してくるのだから、当然、弾圧の対象となる。教団は仕方なく国家神道色を強めることで政府の公認を得、戦後ようやく、中山みきへの原点回帰を果たした。

 私が気になったのは、教典に頻出する〈世界〉という単語だ。「日本国語大辞典」によれば〈世界〉は、梵語を翻訳した仏教用語で、800年代から史料に現われている。

 それまでの〈世の中〉などの用法に加え、〈地球上のすべてのひろがり。特に、諸国家の集合体。万国。地球〉(「日国」)の意味を持ち始めた初出は、1795年。つまり、日本の“外”を意識し始めた時から、「世界」は「外国」を含むようになったということである。

 天理教の聖典、中山みきの筆による『みかぐらうた・おふでさき』には、「世界」という言葉が、なんと約150回も登場するのだ(対して「日本」は30数回)。


 〈これからは何でも世界一列を 勇める模様ばかりするそや/だんだんと何事にても日本には 知らん事をわ無いと言う様に/何もかも世界中へ教へたい 神の思惑深くあるのに……〉


 「世界」と「日本」を使い分けていることからもわかる通り、中山みきにとっての「世界」は、明らかに万国を差しているのである。幕末、当時のグローバリゼーションの大波が押し寄せて来た際、中山みきは、それまでの仏教(先祖崇拝)や神道をぶん投げて、新しい神話を提示したのだ。「世界」に対し、「世界観」で立ち向かおうとしたのである。現実世界の中に、諸外国に侵されないユートピアを創ろうとした、という言い方もできる。

 逆に言えば、既存の仏教界は、グローバリゼーションに対抗する「世界観」を描き得なかった。そして新政府は、神道に新たな世界観構築を託してしまうのである。

 勝手に悦に入ってますが、第三回めにも乞うご期待!

本を読む

『みかぐらうた・おふでさき 民衆宗教の聖典・天理教』(中山みき著、村上重良校注)
今週のカルテ
ジャンル宗教
時代 ・ 舞台1800年代後半、幕末~明治初期の日本
読後に一言中山みきが書いたという、「みかぐらうた」と「おふでさき」、そのリズムの良さに驚きました。
効用幕末、当時のグローバル化にさらされた日本人の苦悩がみてとれます。
印象深い一節

名言
これからは世界中の胸の内 上下ともに分けて見せるで/これを見よ世界も内も隔てない 胸の内より掃除するぞや(「おふでさき」)
類書幕末三大新宗教のひとつ、金光教の聖典『金光大神覚』(東洋文庫304)
同じく黒住教の聖典『生命のおしえ』(東洋文庫319)
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