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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 246|290|339

『アラビアン・ナイト7~9』(前嶋信次訳)

2013/04/25
アイコン画像    セックスレスがいい? それとも……。
半年でアラビアン・ナイトを読み切る(3)

 先日、米国帰りの泌尿器科の医師との会話の最中、「米国では夫婦間のセックスレスが裁判沙汰になる」という話題が出た。だから男性(夫)は、人工勃起装置を埋め込んだり、バイアグラに、とそれは大変なのだそうな。

 一方、日本では夫婦間、恋人間のセックスレスが指摘される。実際、セックス経験者に「過去1か月間のセックス回数」を尋ねた調査では、44%がゼロだった(2012年日本家族計画協会/男女の生活と意識に関する調査)。

 『アラビアン・ナイト』は、寝物語であったせいか、実は艶っぽい話が多い。中でもそのものズバリの話題を扱ったのが、9巻の「王女と猿との物語」だ。

 ひとりの姫君が黒人奴隷と男女の仲になるのだが、ここからがすごい。


 〈ひとたび男性との交わりに溺れると、その男なしでは、一時間でも辛抱が出来なくなりました〉


 依存症である。で、女官に相談すると、いわく、


 〈猿ほど男女の交わりを数多くするものは、この世にいない〉


 後日、猿つかいが姫の部屋の下を通る。猿にウィンクする姫。するとこの猿、鎖を断ち切って、姫の部屋まで登ってきた。先が見えてきましたね? 禁断の愛に突入である。もちろん、そんなこと許されるはずもない。姫は猿と手に手を取って、駆け落ちしてしまうのであった。

 姫はカイロに落ち着き、砂漠の端の家に住んだ。毎日、肉屋に肉を買いに行くのだが、みるみるやつれていく。不審に思った若い肉屋が後をつけてみると……。姫は、猿に肉を食わせ、葡萄酒を飲み交わしている。


 〈そのうちに猿めはおよそ十回も女をもてあそびましたので、とうとう女の方は気を失ってしまいましたんです〉


 部屋に踏み込む肉屋。肉屋からすれば、魔物の猿だ。飛びかかってくる猿に、肉切り包丁を突き立て、殺してしまった。さあ、気づいた姫が悲しむこと! 後を追わせてくれと泣き叫ぶものだからこの肉屋、猿の代わりに夫婦となった。ところが、〈わしの方が弱すぎて、とても辛抱が出来なく〉なる。猿とは毎日、気を失うほどむつみ合っていたのだから当然だ。米国では離婚ですな(この後、近所の婆さんの智恵で、姫は正気に戻って大団円)。

 うむ、そう考えると日本のセックスレス、お互いにOKならば、悪いことではないような。日本人の長寿の秘密も、案外、このあたりにあったりして。

本を読む

『アラビアン・ナイト7~9』(前嶋信次訳)
今週のカルテ
ジャンル文学
時代 ・ 舞台中世のアラビア(イラン、イラク、エジプト、シリアなど)
読後に一言『アラビアン・ナイト』のすべてが、下の話ではありませんので、念のため。
効用当時の女性の美しさの基準が知りたい人は、「ヤマンのそれがしと六人の女奴隷の物語」がオススメ。6人の異なるタイプの美女が登場します。
印象深い一節

名言
3人の妾(女奴隷)が主人のナニを取り合って論争。2人がコーランまで持ち出して口論している最中、もう1人がひと言。〈おふたりの争いが解決するまで、このお品はあたしがおあずかりしておくことにいたしますわ!〉(第387夜)
類書性愛の秘戯を説く古代インドの教典『完訳 カーマ・スートラ』(東洋文庫628)
12世紀ペルシアの恋の詩『ライラとマジュヌーン』(東洋文庫394)
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