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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 502|530|551

『アラビアン・ナイト16~18』(池田修訳)

2013/07/25
アイコン画像    1001夜、語り終えたあとに一体なにが!?
半年でアラビアン・ナイトを読み切る(最終回)

 勝手に始めた「半年でアラビアン・ナイトを読み切る」シリーズも、今回が最終回。いやはや長い道のりでした。おつきあいくださった方々に、御礼申し上げます。

 さて、このシリーズを終えるにあたって、そもそもこの物語のスタートが何だったのか、改めて思い出したい。

 発端は、王の妻の不倫 (!)。怒った王は女性への復讐のため、契っては殺し……の繰り返し。国内のうら若き娘は激減し、まるで末世。これではダメだと、同じ目的で呼ばれたシャハラザード(大臣の娘)が、王に殺されないために寝物語を始めたのでした。話の続きが聞きたい王は、1001夜、殺さずに聞き続ける。

 では、すべてを語り終えたシャハラザードは? 彼女はやおら、〈私のたっての願いお聞き下さいませんでしょうか〉と切り出すのである。快諾する王。シャハラザードは子どもを連れてこさせる。


 〈三人とも男の子で、一人はやっと歩くようになっており、もう一人は這いまわり、今一人はまだ乳を飲んでおりました〉


 いやー、すごい展開です。王さま、聞くだけではなく、やることをやっていたんですな(そういえば、艶話も多かったっけ)。1001夜ということは毎晩続けたとして約2年と9か月だから、シャハラザードは孕んでは産み……を繰り返していたのだ。シャハラザードは続ける。


 〈この幼な児らを哀れと思し召されて、どうか私の生命殺(あや)め給うのを免じていただきたく……〉


 子どもを楯にとった泣き落とし作戦である。これには王の心も溶解。〈これを聞くと、国王は泣いて、子らを胸にひしと抱きしめ〉、つまりはハッピーエンド。

 私はでも、この後に続けられた文言に、「イスラム教」を垣間見た気がしました。だって、こう続くんです。


 〈こうして国王と、その王国は至福と喜悦と安楽と幸運に恵まれるところとなりましたが、やがてすべての楽しみ事の破壊者にして人々の交わりの断絶者である死が彼らを襲いました〉


 大団円で終わらせず、“死=終わり”を強調する。そして、死を超越した存在として、〈比類なき唯一なる神を讃えまつらん〉と結ぶのだ。

 長い長い物語の最後に、決して避けざる死を持ってくる――安易なハッピーエンドが蔓延する時代にあって、これは不思議な余韻となって私の中に残りました。

本を読む

『アラビアン・ナイト16~18』(池田修訳)
今週のカルテ
ジャンル文学
時代 ・ 舞台中世のアラビア(イラン、イラク、エジプト、シリアなど)
読後に一言シャハラザード妹がどうなったのか、物語としてはそこが気になりました(些細なことだけど……)
効用計6回に及ぶ、このコラムを読み続けた方は、きっと忍耐力が増したに違いありません。お疲れさまでした。
印象深い一節

名言
(王が悔い改めたとのニュースが伝わり)このような幸せな夜は生涯めったにあるものではありません。その夜は白夜のように輝き、昼間より明るいぐらいでした。(第1001夜)
類書イスラム教徒の道徳の書『薔薇園』(東洋文庫12)
イスラム文化圏の笑い話『ナスレッディン・ホジャ物語』(東洋文庫38)
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