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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 588

『共古随筆』(山中共古著、飯島吉晴解説)

2013/09/12
アイコン画像    民俗学の先駆者の面白エッセイで読み解く
「あまちゃん」と「方言」と「自分」

 そろそろ最終回のNHK朝ドラ『あまちゃん』ですが、駆け込み的に一席。

 このドラマって、方言がキーですよね? 東京育ちの主人公は、標準語を喋っていた当時はパッとしない女の子だったのに、祖母や母の田舎の「方言」を使いだした途端に、個性が生まれ、皆の人気者になる。方言という道具によって、自分を確立したのではないだろうか。というのが今回の見立て。

 〈(方言の地域を)狭くとれば、何県何郡何村大字何々の方言もある。(中略)さらにつめれば、個人ごとのことばの違いになって、これが地域差の最小単位となる〉(ジャパンナレッジ「国史大辞典」、方言の項)

 つまり話し言葉は十人十色。「方言」そのものが、個々人のアイデンティティーと重なるのではないか。実際、共通語の母体となった山手言葉は、〈特徴がないことを特徴とするようなことば〉(同前)とされている。方言はその逆というわけだ。まあ、文化的遺産と申しましょうか。で、事実、方言を収集すべき文化の一つと考えた人間がいた。〈民俗学の先駆者〉(同「日本人名大辞典」、山中笑(えむ)の項)として知られる、山中共古(山中笑(えむ))である。

 牧師でもあった山中は、とにかく収集・記録することが好きだったようで、『共古随筆』の一編、「土俗談語」などはその好例である。見聞きしたさまざまな事柄をイラスト付きで記録しているのだが、「東京現今の神仏と食物(名物)」のようなグルメ情報から、各地域のジャンケンのかけ声、迷信まで、自在に収録する。


〈大阪もなー、今年はなー、ゑろうぬくうをましてなー……〉(大阪から送られてきた方言手紙)


〈米沢(山形県米沢市)辺、ソーダジ、敬語。ソーダス、同輩。ジ敬語。ス同輩に云ふ〉


 民俗学的な貴重な情報の中に、上に挙げたような「方言」事情が多数、紹介されている。方言=文化(もっといえばアイデンティティー)であるからに違いない。

 私が住む三浦でも、アクセントに方言が残っている。例えば「ミウラ」。一般的には、「ウラ」にアクセントを置くが、三浦市民は「ミ」を強く言う。地元民の誇りだ。

 じゃあ東京生まれ、埼玉育ち、三浦在住の私のアイデンティティーは? ということで話題の「出身地鑑定!! 方言チャート」(ジャパンナレッジ)をやってみました。結果は、何度やっても「神奈川県」。県民の誇りを身につけたというべきか、それとも埼玉育ちの誇りを捨ててしまったのか……。中途半端な自分でありました。

本を読む

『共古随筆』(山中共古著、飯島吉晴解説)
今週のカルテ
ジャンル民俗学
時代 ・ 舞台日本、1928年刊行
読後に一言解説によれば、著者は〈蒐集する趣味〉を持っていたという。数集めれば、見えてくる世界がある、ということなのだろう。
効用「三猿塔」では、図入りで都内の庚申塔を紹介。この収集ぶりに感嘆します。
印象深い一節

名言
ところかはれば品替る、難波のあしのよしあしも時の変遷地の変化、桑田海と鳴海がた、おはり初もの珍らしき所ろ所ろの土俗談……(土俗談語序)
類書著者の盟友・柳田国男の『増補 山島民譚集』(東洋文庫137)
明治の日本の風俗を浮き彫りにする『日本雑事詩』(東洋文庫111)
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