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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 215|225|238

『十二支考(全3巻)』(南方熊楠著、飯倉照平校訂)

2013/12/26
アイコン画像    来年の干支、午年はどんな年になる?
南方熊楠が知識総動員で語る「ウマ」

 南方熊楠に、『十二支考』という「読み物」がある。総合雑誌『太陽』に連載されていたもので、「民俗学エッセイ」といった体裁だ(ただし、子(鼠)については他誌に発表したもので、丑(牛)については記述なし)。校訂者の飯倉照平氏いわく、〈それまでの南方が、多様で独特な関心の持ち方で手に入れた知識が、きわめて圧縮されて投入されている〉読み物で、〈南方熊楠の世界への入門書〉である、とする。

 この先の展開はもう読めましたね? そうです、馬です、馬。だって来年は午年ですから。『十二支考』で来年の干支をみてみよう、というわけです。


 〈十二支に配られた動物輩(ども)いずれ優劣あるべきでないが、付き添うた伝説の多寡に著しい逕庭(ちがい)あり〉


 と熊楠自身書いているのですが、ではどの干支の記述が多いかと言えば、ウマなんです。英国留学の際、馬小屋の二階で起居していたという親近感もあったのか、ページ数で言えば153ページと断トツ(最小の羊にいたってはわずか18ページ)。だったら午年のタイミングで、『十二支考』を取り上げよう、というわけなんです。

 彼が博覧強記なのはご存じの通りで、今さら説明するまでもないのですが、この読み物にはポロポロと熊楠の本音がつぶやかれます。これが面白い! 列挙します。


 〈……滝川一益、北条勢と戦い負けた時、炎天ゆえ馬渇せしに、河水を飲ませて乗りしに走り僵(たお)れ、飲ませなんだ馬は命を全うしたというに似ておる。して見ると我輩も飲まぬ方がよいかしらん〉


 〈馬すら酒好きながある。人をもってこれにしかざるべけんやだ〉


 極めつけはコレ。


 〈馬の話をすると、とかく女のことを憶い出す〉


 と、熊楠流エロネタを何ページにもわたって書き連ねるのです。〈馬驢はその陰相顕著ゆえ、これを和合繁殖の標識とせること多し〉というもっともな理由もあるのでしょうが、まるで、今の『週刊ポスト』や『週刊現代』の「セックス特集」いった有り様。


 〈『相島流神相秘鑑』という人相学の書に、交接は死の先駆、人間気力これより衰え始む、故にその時悲歎の相貌を呈す、というように説きあったは幾分の理あり〉


 ……説明はやめておきます。わかりますよね? 研究熱心の熊楠は、妻との体位をすべて記録していたぐらいですからねぇ。エロで今年を締めくくるのもなんですが、来年も肩の力を抜いて馬なりで行くとしますか。

本を読む

『十二支考(全3巻)』(南方熊楠著、飯倉照平校訂)
今週のカルテ
ジャンル民俗学
時代 ・ 舞台大正時代に発表
読後に一言知識をちぎっては投げ、ちぎっては投げ……という感じで進むエッセイです。熊楠の中では比較的読みやすいです。
効用自分の干支を読んでみましょう!
印象深い一節

名言
意馬(いば)の奔るに任せ、意(おも)いつき次第に雑言するとしよう(「馬に関する民俗と伝説」『十二支考2』)
類書エッセンスたっぷり『南方熊楠文集(全2巻)』(東洋文庫352、354)
親交のあった柳田国男の論集『増訂 山島民譚集』(東洋文庫137)
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