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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 577

『唐両京城坊攷 長安と洛陽』(徐松撰著、愛宕元訳注)

2014/10/30
アイコン画像    都城マニア(?)によって蘇る、
中国の古都・長安&洛陽のすがた

 思わず買ってしまう本のジャンル――それもマニアックなものが、本好きにはたいていあるように思う。城マニア、電車マニア……(恥ずかしい話だが、私の書棚には「塔」の本が数多く並んでいる)。

 多分、この本もある意味で「マニア垂涎の書」というジャンルの本ではないか。『唐両京城坊攷 長安と洛陽』である。訳注者の解説を引用するならば、〈唐代の二つの都城、すなわち長安城と洛陽城について主として歴史地理的な視点から考証学の手法を用いて復元した〉本ということになる。中身をのぞいてみよう。


 〈宮城の規模は、東西四里(二一一六米)、南北二里二七〇歩(一四五五・三米)、城周一三里一八○歩(七一四一・六米)、城高は三丈五尺(一〇・三米)である。南側は皇城で、北側は御苑となっている。宮城内の東には東宮、西には掖庭(えきてい)宮……〉


 ね? 「マニア垂涎の書」という意味がおわかりでしょう。ページを繰っていくとさらに、俯瞰図、建物の配置図、変遷図、地形図、外観復元図……とありとあらゆる地図が載っていて(お見せできないのが残念だが)、見ているだけで(地図や城好きの私には)楽しいのだ。

 ここで取り上げている長安と洛陽。ともにかつての都である。長安は、現在の陝西省の省都西安市にあたり、「西京」とも呼ばれた古都だ。〈特に栄えたのは漢・唐の時代である。政治・経済・文化の中心都市であるとともに、東西交通路の要衝でシルク=ロードの起点であった〉(ジャパンナレッジ「国史大辞典」)。一方の洛陽は「東京(とうけい)」とも呼ばれ、今の河南省西部にあたる。〈後漢・西晉・北魏などの首都となり、隋・唐代には西の長安に対し東都として栄えた〉(同「日本国語大辞典」)。

 こうした中国を代表する古都の情報をきちんと整理すべく、清朝の歴史家・徐松が、当時の知見――400以上の資料を駆使して考証した都城誌こそ、本書なのである。

 ここに、物語が書かれているわけではない。人が描かれているわけでもない。延々、上記の記述のようにたんたんとデータが記されていくだけだ。注や図版を除けば、おそろしく短い本だ。しかしデータを目で追い、図版を凝視していくと、いつの間にか、かつての都の情景が目に浮かんでくるようであった。著者をマニアと言うには語弊があるかも知れないが、これぞマニアの底力だと、妙に感服した。マニア、恐るべし……。

本を読む

『唐両京城坊攷 長安と洛陽』(徐松撰著、愛宕元訳注)
今週のカルテ
ジャンル産業・技術
刊行年 ・ 舞台1810年/中国
読後に一言職人のような徹底ぶり。これを「素晴らしい仕事」と言わず、何と言おう。
効用唐代の都の様子、当時の技術が、よくわかります。
印象深い一節

名言
昔の学者は左に地図、右に史書を置いて、史書を読むには必ず地図を参照したものである(序)
類書唐の都・長安の栄華を描く名随筆&小論『増訂 長安の春』(東洋文庫91)
5世紀中国(北魏)の都・洛陽の仏寺の様子『洛陽伽藍記』(東洋文庫517)
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